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かれこれもう二十年以上、マニュアルトランスミッションの車に乗っている。一、二、三、四。うん、たぶん四台目(四代目)。運転が得意なわけでもないので、いまだ坂道発進とか(坂道バックとか!)涙が出そうにいやなんだけれど、それでも何となくこだわって。
最初の二台は所謂「旧車」だった。フォルクスワーゲンのビートル。(これまた)所謂「かぶとむし」ってやつだ。
「初代」のは、今思い出してもダメだった…。大失敗の買い物だった。詐欺師みたいに調子の良い兄ちゃんに勢いで買わされたような気もする。今になって思うと。
高速に乗ってもなんだかスピードが出ないなぁと思っていたら、メーターが「KMPH(km/h)」ではなくて「MPH(mile/h)」だった…。それを訴えても爆笑するだけの兄ちゃん…。
塗装もひどいし、ガムテープで補修してるところもあるし。でも、それらに(なぜか)気付かずに買ってしまった自分が情けなくて、彼を責めることもできなかった。
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北陸方面に遊びに行くときに、敦賀のインターの手前に小さな小さなワーゲンショップがあって、いつも気になっていた。一度勇気を出して寄ってみると、気のいいおじさんが出てきて、とりあえず珈琲など淹れてくれる。私が、私のビートルの愚痴をこぼすと、(彼はそれを見ることもないまま)「うんうん」と理解を示してくれる。私は彼を完全に信頼した。
一台、修理中(修理前?)のビートルがあって、
「あれ、直してるんですか?」
「うん、まぁ、ぼちぼちね。」
「売約済みですか?」
「いいえ。」
「じゃあ、乗れるように直してくれませんか? そして、売ってくれませんか?」
「いいですよ。」
「いつ、できますか?」
「予定はなかったけれど、乗りたいなら、急いで、3か月くらいで仕上げるよ。」
「ありがとうございます。」
(元々は紺色だったと思われる塗装が剥がれていたので、)
「何色に塗る予定なんですか?」
と聞くと、
「ああ。元と同じ紺。この車には紺が似合うような気がするから。」
私は完全に彼に惚れた。