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【もこもこ怪獣は今日もモコしてる。】 2食目 「たまにはお肉以外の食べ物も」(連載小説)
もこもこ怪獣のビャッキーは街を歩いていた。
姿はビャッキーの最初の友だち。
レーリの姿をしている。
ビャッキーの本当はもこもこ怪獣。
相手の生物を食べて、その生物のゲノムをすべて使えるようにする。
その結果として食べた生物の姿と行動様式のすべてを使えるようになる。
もこもこ怪獣はそういう生物なのだ。
だけど心だけはコピーできないので、
もこもこ怪獣は相手とまず友達にならないといけない。
もこもこ怪獣のビャッキーはお母さんから言われてたのだ。
「相手を好きになり、相手もあなたを好きになったら、食べてその人になりなさい。そうやって私たちは大人になるの」
そういうわけで最初の友達レーリと仲良くなったビャッキーは、
「私は病気で長くないから、それで良ければ食べていいよ。そのかわり」
という約束のもとに、レーリを食べてその姿を取れるようになったのだ。
レーリ、大好き。
食べるものは大好きなものだ。
大好きだからそれに「なる」ことができる。
そしてもうひとつ。食べた対象の先天的に使える能力も使えるようになる。
レーリの先天的に使える能力とは・・・後で紹介しよう。
今はまだ。
街を歩いていたビャッキーはお腹がすいてきてしまう。
そもそもレーリのお父さんとお母さんのところに行かねばならないのだけど、場所がわからないし、道中それを聞きながら歩いていくつもりだったが、誰も知らないというか知るわけがない。
「レーリのお父さんとお母さんのところに行きたいんだけど」
「誰だい?それは?」
途方にくれているうちにお腹が空いてきた。
相手を食べて成り代わる能力がビャッキーの固有能力だが、別にそれ以外でも純粋に食べることもできる。身を守るために食べることもできる。そういうのは単なる燃料にしちゃう。だいぶ燃料を温存してきたつもりだったけど、そろそろ限界もこ。
すると、とある女の子が目についた。
自分(レーリ)よりも少し下くらい?
なんでこっちを見てるんだろう?
その女の子はビャッキーのことを睨みつけているのだった。
ビャッキーは興味が湧いて、その子に近づいた。
相手の子はびっくりしたようだ。
「な、なによ」
「ねー。私はビャッキー、よろしくね。何してたの?」
「はあ?なんだこいつ?」
その子はますますビャッキーのことを睨みつけた。
「友達になってよ」
ビャッキーはいつだって単刀直入。
空気を読まないというか空気が要らない。
「なんでよ!」
相手は怒った。
「私はあんたみたいなのが嫌いだから睨んでたんだよ。どうせ良いとこのお嬢ちゃんなんだろ!豚娘が!何も知らないくせに、お前みたいなやつがいるから!」
「お腹空いた~」とビャッキー。
気を殺がれた怒れる娘は「お前、腹減ってんのか?」と訊いた。
この時点で怒れる少女(その名前はラリッサ)は、
相手が見た目通りの相手ではないことに気がついた。
おしゃれな服を着たお嬢様だ。ちゃんとした親がいて。
でもよく見れば、服はずいぶんと汚れている。靴に至ってはボロボロだ。
お嬢様が歩くような街ではない、ここは。
もしかして。
家出してきたのか?
風のうわさに、上流階級だからといって、嫌なことがまるで起こらないわけではないことは知っている。認めたくないが、上流階級でも娘殺しは起こるものらしい。
そういう時は世間では嫌というほど同情が流れた。
それがますますラリッサを苛立たせた。
とはいえ、苛立つのは世間に対してであって、殺された娘に対してではない。
そうに違いない。
家出してくるんだ。
こういう奴らも。
途端にラリッサの感情回路が切り替わった。
今まで一度だってそんな気持ちになったことはなかったけど。
もし自分と同じ境遇だったなら。
それはまるで、自分が大人になって復讐ができるようになったときに、夢にまで見たその時が来た時のようだった。
私が守るんだ。
あの日あの時、自分自身を守ることができなかった仇をここで取る。
同じことは繰り返させない。
「腹減ってんだろ。こっちに来な」
ラリッサは焼きイモの万引き方法をビャッキーに教えた。
「あと30秒したら焼き芋屋のおじさんは屋台を15秒だけ離れる。その瞬間がチャンスだ。袋の中に詰めるだけ詰めて走れ」
「どうしてわかるの?」
「なんでかわかるんだよ。あたしは」
ラリッサはいつもほんのちょっとだけ、先が視えるようになった。
あの日から。
そして。
「こりゃあ。待ちやがれ、餓鬼どもー」
焼き芋屋のおやじの大声が通りに響いたのだ。
焼き芋屋のおやじは「だいぶ持っていきやがった」と嘆いた。
2人がかりだったから。
ため息が出る。
とはいえ、見た目ほど怒っているほどではない。
ああいう浮浪児が食べ物を持ってってしまうのは仕方ない。
ネズミみたいなもので、生きるためにやってるんだと分かってる。
単に自分が不注意だっただけ。
おじさんはカミさんになんて言い訳したものかな、と思った。
廃墟の中で、ふたりでめいっぱい焼き芋を頬張る。
本当は、ビャッキーは肉が欲しかったのだが、まあなんでも食べられるので。
贅沢は言わない。お腹が減っているときはなんでも美味しい。
「美味しいねー」とビャッキー。
「旨いよな」とラリッサ。
お腹がいっぱいになったら自己紹介の時間。
「私はビャッキーだよ。あ、レーリと呼んでもいいのよ」
「あたしはラリッサだ」
「あたしはこう見えて貴族の娘だ」
ラリッサは語る。いつも語る誰もその真実を突き止められない話。
「うちの親は嫌われてた。だからある日、殺された。父さんはだから自業自得だ」
ラリッサの語りを信じる者はもういない。
証拠はない。そもそもラリッサは上流社会の常識をまるで知らない。
良くある話だ。
もちろんビャッキーは疑わなかった。
「すごーい」疑うべき理由と比較すべき知識をビャッキーは持たなかった。
ここでビャッキーは例のとんでもないセリフを言ってしまう。
「ねえ。私、ラリッサのこと食べてもいい?」
「は?」
一瞬だけ怒気が蘇るラリッサ。
攻撃される際の強い警戒心。
オモイダシタ。
でもすぐ考え直す。
目の前のビャッキーの姿は、とてもじゃないが警戒するようなものじゃない。
いや、あたしの方が強いし。
「さてはお前、どこでそんな言葉を覚えた?」
「お母さんから」とビャッキー。
「お母さんが言ったんだ。私たちの種族は相手を食べてその人になるとき、かならず相手の同意を得ないといけないって。そうしないと相手の能力を使えないというかー」
「そうか。まあ深くは聞かないよ。話したくなったら話せばいいさ」
ラリッサは勝手に勘違いした。
聞きたくないことは聞かない。
自分も言いたくないことは話さない。
それでもビャッキーは続けた。
「レーリが言ってた。ほとんどの人は食べられたいとは思わないし」
それで廃墟に横になったビャッキー。
「まあ、しょがない」
「しょうがない、だろ?」
確かに腹が満たせば休みたくなる。
でもここは安全な場所じゃない。
「おい、誰かいるぞ」
街のギャング、スカドロとブラウンが現れた。
「こいつはあれだ。がきんちょだ。兄貴」
スカドロとブラウンは、しばしばシノギの話をここでする。
「もしかして聞いてたかもしれねえ兄貴」
ラリッサもうっかり眠くなっていた。
それでも1人だったら素早く逃げられた。
でもビャッキーがいる。
ビャッキーを揺すった。起きろバカ。
「うーん、もう食べれない」
「おいおい、寝ててもいいぜ。お嬢ちゃんたち」
スカドロに完全に見つかった。
死ぬほどヤバい。
だが切り抜けて見せる。
恐怖心を捻じ曲げて、世界に復讐する戦士としての気概を引きずり出すラリッサ。
そうだ。私は戦士なんだ。
どんな強敵にだってひるまない。
闘うためだけに生まれてきた。
数秒先が視える能力は、予期しないことを教えてくれたりはしない。
視ようと思ったことしか見えてくれない。
でも強い戦士は勝負を捨てることはない。
「なんだい。ダンナたち。なんか仕事があるかい?手先の器用なことだったらなんだってやれるぜ。つい今しがた焼き芋屋のアホからくすねてきたとこだし」
スカドロは、ラリッサの虚勢をみてゲラゲラと笑った。
「ぎゃははは、おい、いっちょ前に対等の口をきいてんじゃねえよ」
スカドロは乱暴にラリッサをつかむと、上に釣り上げた。
「おい、ガキ。てめえ何様のつもりだ。ああ!」
そのまま首を締め上げる。
ラリッサは耐えた。怖くなんてない。絶対に怖くなんてない。痛みなんて感じない。私は戦士だ。闘うために生まれてきたんだ。首が折れたってなにされたって、悲鳴なんかあげるもんか。殴られたら100倍の力で憎み返せ。それが戦士だ。
でも、スカドロの手が自分の服にかかった時に、小さな悲鳴を上げた。
「待ちなさい」
凛としたするどい声。
スカドロとブラウンの気持ちがその新しい声に向かった。
「まったくビャッキーの奴、肝心な時に役に立たないんだから」
「兄貴い、こっちは結構上玉ですぜ。家出でもしてきたんですかね。そんなチビよりこっちの方が」
ブラウンの声は最後まで続かなかった。ブラウンの足が吹き飛んだからだった。
ブラウンは悲鳴を上げた。
レーリの人格は食べられてもたまに出てくる。
それがビャッキーの捕食の性質のひとつ。
相手の人格まで体内で再現する。
ただ完全ではない。相手のことを良く知らないといけない。
レーリに関してはたっぷりと時間があったので再現度は高い。
それにしても。
なぜレーリが病室に閉じ込められていたのか。
なぜレーリが不死の病気にかかっていたのか。
外に出すと危険だからだ。
特殊な臓器と特殊な能力。マインドニードル。
「何!こいつ」
スカドロはラリッサを放り出し、ベルトに刺した銃を取り出した。
でもスカドロも同じように最後までセリフを言えない。
全身が大口を開けたビャッキー(レーリ)が真白な牙を押し出した。
スカドロが最後に観たのは右と左から高速で閉じる白い扉・・・
「まずいっっ、変な味がする」
ビャッキーはぜんぶ吐き出した。
この二人のギャングは変な味がした。食べられない。少なくとも好みじゃない。
ラリッサは正体をあらわした「もこもこ怪獣」を呆然と見ていた。
それから数日間、2人は会わなかった。
出会ったのは数日後。街の建物と建物の間にある細い隙間、路地と呼べる程度のものですらない。なぜラリッサがそこに逃げ込んだかというと、大人が入ってこれないからだ。
ラリッサは死にかかっていた。
「ラリッサ、どうしたの?ひどい傷だよお」
ビャッキーが、あの巨大な口の怪物が現れた。
皮肉なもので、本当の怪物がいちばん怪物らしくなかったんだ。
「・・・なんだお前、またいたのか」
全身をあざだらけにされたラリッサは内出血性ショックに襲われていた。
適切な医療施設に連れて行かないと、いやそれでも厳しい状態だ。
「・・・ちょっとしくじった。なんてことない。あたしは戦士だからな」
「待って、今助けるから」
この町のダウンタウンには救急車なんて入ってこれない。
「・・・お前は大丈夫だ。お前は強いから。できれば、でも、頼みがある」
ラリッサの最後の頼みだった。
その数日後、東部ニュースはこう報じている。
スラム街で市街戦が起こり、大量のギャングが死んだようだと。
ふしぎなことには、ギャングたちはみな、銃やナイフで死んだのではなく、巨大な獣に噛み千切られていたようだという。報道では軍用犬を大量に繁殖させてた一味がそれを行ったと結論したようだった。
ただ司法医は、これを犬の噛み跡だとするとそれは全長10mもあるような巨大な犬であり、常識的にあり得ない、と結論付けている。
あるものは人間を食べる謎の怪物、都市伝説で語られるフォデックが実在した、などと語り、オカルト系のチャンネルは大いに盛り上がった。
その街の浮浪児たちが施設に収容されたことはどこの局も報道しなかった。
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ジャンプ原作大賞に応募した小説ですが、
記事が反映されないみたいなので応募はあきらめました。
ただこの作品はかわいいので、少し続きを作ってみようと思います。
不定期で連載に挑戦してみます。
一話目は下に。
話数は「一食目」「二食目」という形でナンバリングします。