もこもこ怪獣は今日もモコしてる。本編 【短編小説→連載小説に】(1食目)
病気の少女レーリは、ある時、部屋の押し入れにもこもこ怪獣がいるのを見つけた。
「みつかっちゃった」
レーリは聞いた。「あなたはだあれ?」
もこもこ怪獣は言った。「あたしはビャッキー」
レーリも自己紹介。「私はレーリよ」
ビャッキーはいった。
「あのね。あのね。私は大人になるために人間を食べないといけないんだあ。人間を食べると人間になれるの。お母さんがそう言ってた」
「そうなんだ。じゃあ私を食べにきたの」
「まず相手に食べていいか聞きなさいって言われた」
「それじゃほとんど無理じゃないかしら」
「そーなんだー」もこもこ生物のビャッキーは声が沈んだ。
「積極的に食べられたいと思う人間はいないからね」とレーリ。
そうするとビャッキーはさらに気持ちが沈んだように見えた。
「じゃあ、しょうがいないから他に行くね」とビャッキーはしぶしぶ告げた。
「え、そんなんでいいの?」
「???」
「つまり、そんな風にいちいち相手の許可を得ていたら人を食べることなんてできるわけないと思うんだけど」
「でも、そういう決まりだし」
レーリは考え込んだ。
もしかしたらこの子ならやれるかもしれない。
「ねえ、あなたってどうやってきたの」
「言ってることわかんない」
「この部屋は鍵がかかってる。勝手には入ってこられないし、出ることもできない」
「瞬間移動」
なるほど。瞬間移動が使えるんだ。
「私を連れて出れる?」
「できない。自分だけ」
「ねえ、しばらくここにいてよ。考えてあげるから」
何を考えるかについては言わなかった。
もっともこの時点でビャッキーが理解していたかどうかはわからない。
ただ「うんっ、わかった」と、もこもこ怪獣のビャッキーは答えた。
とても嬉しそうに。
しばらくお友達をやることにした。
レーリは独りぼっちだったのだ。
レーリのもとにやってくる料理は美味しかった。
愛情たっぷりのクマ人形も贈られてきた。
「レーリは愛されてるね」ビャッキーは言った。
「クマは嫌いなの」レーリは言った。
ある日、レーリは言った。
「ねえ。私のこと食べていいわ」
「ほんとう?」
「私は病気で長くは生きられないの。だから私の体で良ければあげるわ」
「そうなんだ」ビャッキーは少し申し訳ない表情をした。
「本当は分かっててここにきたんじゃないの?病気で長くない子がいるから」
「???」
意味が伝わらなかったらしい。
まあ、いいか。
「ただひとつお願いがあるの」
「なに?」ビャッキーは聞いた。
「私が生まれてきたのはお父さんの希望。私が死ぬことはお母さんの夢の終わり。だから、両親を幸せにしてほしいの。私は死んでしまうけど、あなたはそうでもないでしょ」
「うん!まかせて!」ビャッキーは約束した。
「どうしたんだ。いったい?」
「それが博士。レーリが出てきてしまったんです」
「誰かが閉鎖を解除したのか?」
「そんなはずはありません」
「レーリの肉体は貴重なんだ。彼女の肉体がないと医学は大変なことになる」
補佐官は博士の言葉を皮相に考えた。
(医学全体のことはともかく、娘さんのためでしょ。娘さんの特殊な病気を治すため、遺伝子が適合するドナーを手に入れるための)
しかし、それ以上を考えている時間はなかった。
「博士、レーリが!」
目の前にレーリがいた。
博士「レーリ!今すぐ部屋に戻りなさい」
ビャッキー「うーん、レーリのお父さん、じゃないみたいね」
ビャッキーの口は全身よりも大きい。大きく開けると頭のてっぺんから足の先まで。
さらに随意で体表面のあらゆる部分から剣歯を含む顎を飛び出させることができる。
相手のDNAを丸呑みして、自らの細胞内に蓄え、それを使って肉体を再構築して捕食した生物の姿から行動律まですべて再現する。
ただし脳や意識だけは厄介だ。DNA丸呑み型では相手の意識まで知ることはできない。
そのため相手のことを知るためのプロセスが誕生した。
相手のことを好きになり。相手そのものになろうとするプロセス。
ビャッキーはそれを愛と考えている。
レーリ、もといビャッキーは研究所の所員を全員食べてしまった。
瞬間移動と捕食を使いこなせるビャッキーは本当に肉食獣である。
「さて、レーリのお父さんとお母さんを探さなきゃ。約束したもんね」
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ジャンプ原作大賞に応募しましたが、記事が新着に反映されず、受理すらされなかったと思います。
それでも、この作品がカワイイので、応募とは関係なく、連載小説にすることにしました。
今後、何話続くかわかりませんが、続編を書いていきます。
話数は「一食目」「二食目」という感じにナンバリングしていきます。
よろしくお願いします。
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