集まれ!胃カメラ飲み!

 胃カメラを嗜み始めてかれこれ5年ほどになる。毎年欠かさず1月あたりに胃カメラをのむ。正月の雑煮の餅は毎年断るけど、胃カメラはのむ。私のことを酒のみと思ってる人は多いだろうが、何を隠そうこの私、実は胃カメラのみでもあるのだ。
 会社に指定されている病院は、何も言わなければ全身麻酔で意識の無い間に口から入れる。一昨年、私はその時、喉が細菌にやられ炎症を起こしていた。数日前まで唾をのむのも痛かったのに、胃カメラなんてのめたもんじゃないのでは。そう思って看護師さんに伝えると「鼻からにしましょうか」。え?はな?
 素人の私にはわからぬ。その時たかだか2回しか胃カメラを嗜んでいない胃カメラ初心者の域を出なかった私には、どちらがいいかなどわからぬ。しかも鼻は一部麻酔で意識そのままと言うではないか。
 恐怖より、わずかに好奇心が勝ち、鼻を選んだ私は、気付けば武者震いをしながらベッドに横になっていた。意識あるまま、苦しさにのたうち回るかもしれない恐怖はあるが、自分の内臓が見れる、またとない機会だ。
 しかし、考えたら鼻から入れようが喉は通るのでは無いか? プロに身を任せるしかない私はそんな疑問も、もう胃カメラと共にのみこむしかない状態だ。胃カメラのみは、まさにまな板の上の鯉。
 結果から言うと、私はそれから毎年胃カメラは鼻からのむことにした。
 全身麻酔の時は、麻酔を入れられて10秒もせずに意識を失い、次に目が覚めた時は、別室に横たえており、平気で1時間とか経過していた。
 それに比べ、鼻から入れる場合、一部麻酔で意識がしっかりある。そらキツイ通過ポイントもあるが、総合的に心身共に負担が少ない気がするし、終わってみればあっという間に感じる。10分くらいがんばればいいじゃん。あと、こんな不摂生な生活してるのに、内臓はこんなにキレイなピンクなんだな、冷たいアルコールを毎日流し入れてるのに、なんだか健気だな私の体内、と思えた。逆流性食道炎はあるけれど。これからはお湯わりをもっと増やすね。
 正直、全身麻酔明けは、どうしても不可解さが残る。私は今まで何を?という気分がすごい。胃カメラのみながら暴れ回ってないって言い切れなくない?
 酒をのんで毎度記憶を無くすくせに、それはそれ、これはこれなのよ。
 こちらに意識があると、先生がカメラ入れながら逐一実況中継してくれるのもありがたいのに、なんとそれにプラスして看護師さんがずっと背中をさすりながら、胃カメラののみっぷりをめちゃくちゃ褒めてくれる。全身麻酔で意識が無いより手間をかけさせてるかもしれない、という気にもなるが、やっぱり意識ある方を選ぶ大きな要因よ。こっちはただの鯉だというのに、のみ終われば何かを成し遂げた感がすごい。これには胃カメラのみも大満足だ。成し遂げたのはお医者さんと看護師さんだ。わかってる。
 そういうわけで、毎年胃カメラをのみ終わると少しだけ自己肯定感が上がり、その後の診察で「休肝日を作りなさい」と先生に注意され、我に返るという流れがお決まりになってきつつある。
 ちなみに鼻からだとなんで全身麻酔じゃなくてもいけるかというと、いわゆるあの「えづきポイント」を通らないからとか。
 ほら、君も鼻からいきたくなったでしょ?
私は来年も、裏メニューを頼む常連かのようなお澄まし顔で言うよ「鼻からで」と。

 検診胃カメラ口から入れるか鼻から入れるか。ごめん言いたかっただけ。

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