もてなしの形
目を覚ました圭一は驚愕した。
見覚えの無い布の靴を履いた自身の足は、獣のように密集した茶色い毛に覆われている。両腕も顔も同じだった。尖った爪も生え、身に着けている服は見覚えがない。
三時過ぎに高校から帰り、ゲームをして、一眠りしたはずなのだが、なぜ今、森をさ迷っているのかわからない。
鏡を探して森を出た圭一は、またも驚いた。
そこには、美しい田園風景が広がっていた。澄み切った青空の下、丘の向こうまで、緑の穂が風になびく。グリム童話に出てきそうな、三角屋根に煙突の付いた家が点々と見えた。
見知らぬ場所に呆然としていると、
「おい」という、男の声が聞こえた。
振り返ると、二メートルはあろうかという真っ黒な、ゴリラと熊を足したような毛むくじゃらの生き物が、圭一のすぐ後ろに二本足で立っていた。手には棒を持ち、肩には大きな袋を担いでいる。
足がすくんで動けずにいる圭一に、ゴリラは圭一の肩を抱き、
「久しぶりだな。となり村のみんなは元気か? うちに寄ってけ」と、優しく話しかけた。粗末だが服を着ている。野蛮な獣ではないようだ。
顔見知りらしき優しい獣に連れられて、童話の家の一軒に入った。妻らしき獣と、子供らしき2人の小さな獣が、圭一を暖かく歓迎した。今の自分もこんな容姿なんだろう、と圭一は思った。
「牧場から、食べ頃のを持ってきたぞ」
獣が妻に袋を渡した。その袋から出したぐったりした生き物は……どう見てもニンゲ……。
妻はその新鮮な『食材』で、楽しげに料理を作った。圭一の前に焼き立ての『足』が運ばれる。笑顔で圭一を見つめる異形の家族。圭一は気が遠くなった。
目が覚めた圭一は、椅子に座ったまま、携帯ゲーム機を握りしめた格好をしていた。野獣を狩るアクションゲームをプレイしていたのと、不自然な姿勢で眠りこけた為、変な夢を見たのだ。
「圭一ー、ご飯出来たわよー」
すでに夜の7時。最近煩わしく感じる母の声が、今は暖かい。
父と母が待つテーブルに、白飯と味噌汁、そしてローストした鶏のモモ肉が乗っている。昨日テレビを見て圭一が食べたいと言っていた料理だ。夢の中の光景がよぎった。
圭一はため息を大きく一つつき、圭一のための料理にかぶりついた。
〈終〉
写真:フリー素材ぱくたそ(pakutaso.com)