七年柱(しちねんばしら)
大正から昭和に変わったからと言って、暮らしに大きな変化は無い。
田舎に不相応な洋館の豪奢な部屋に、息を潜めて暮らす令嬢、鹿代(かよ)は尚更だ。
「近頃は毎日雨ねえ……。ね、おカヨ」
おのれと同じ名で、同じ十七歳の女中のおカヨを部屋に呼び、他愛ない話で暇を潰す毎日。
「はい。お嬢様……」
鹿代の相手をしている間、女中おカヨは昼間の事を考えていた。
おカヨは昼間、鹿代の父である村の名主の遣いで、一軒の家を訪ねた。その家の八つの娘としばし喋った。そのうち娘はおカヨの耳に口を寄せて、
「本当は私、今年十(とお)になるの。内緒よ」
と言った。
おカヨが村に来て一年。歳を偽った娘に出会うのは、三人目だ。
その後、おカヨは江戸時代に造られた川の堤の、その上にある社に立ち寄った。人目を伺いながら、懐から出した物を境内の大木のウロに隠し入れた。雨が降り出し、急いでおカヨは屋敷に帰った。
長い鹿代の話からやっと解放され、女中部屋に戻ったおカヨは、不可解だった。この村は、七年後に十七歳になる娘を、いないことにしている。
そして今年十七歳の鹿代は、幼くして死んだことになっている。だから屋敷から出ていけないでいるのだ。
「おカヨ、手紙が届いているよ」
下男の作造が、雨に濡れた茶封筒を置いて行った。開けてみると、堤にある社を描いた絵が入っているだけ。
「この場所……。この木……。もしや……」
差出人の名は無い。そして宛名を見ると、片仮名で『カヨ様』と書かれた上に、名主の苗字がある。鹿代宛ての手紙を間違えて開封してしまった。
急ぎ返そうとした。が、主人の手紙を見たことを叱られる恐れがある。しかもこの手紙は、村の誰かが自分の罪を主人に告げるための物かもしれない、と思った。
鹿代の部屋には親が与えた装飾品が沢山あった。使われることなく部屋を埋め尽くすだけの品を、毎日部屋へ行くおカヨは盗むようになっていたのだ。それを社の大木のウロに隠し、折を見て売り払おうと思っていたのだ。
おカヨは大雨の中を走り出した。
社の敷地には水が満ちていた。盗品が流れ出して見つかったら大変なことになる。大木に近づこうと膝まで水に浸かったおカヨは、溢れる水に流され、堤の底に沈んでいった。
晴れ間の広がる翌朝。村人達がおカヨの下駄を社で見つけ、騒いでいた。
「おカヨがなぜ七年おきの人柱に?」
「娘を差し出すように、脅しで娘に送った絵を見たのでは?」
「名主様は女中を身代わりにしたのだ」
「いずれにしろ龍神様に贄は捧げた」
「昔からの村の習わしとはいえ、次の十七歳の娘を探すのは骨が折れるぞ」
「やむをえん。やらねば村が水に沈む」
おカヨは永遠に堤の礎となった。
〈終〉
写真:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)