新婚生活
正月気分が抜けきらないせいかダルい。
ここ最近は、特に、仕事にならない程の酷い眠気を感じる。物忘れも激しい。
「睡眠時無呼吸症候群じゃないか?」
と、同僚に言われた。睡眠中に呼吸が止まり、寝不足になる症状だ。
「そうかもしれないな」俺は答えた。
だが原因には心当たりがあった。
去年の11月、5年付き合った彼女と別れたのだ。
彼女とは大学で知り合い、就職してからは遠距離恋愛になった。元々、不安定で攻撃的な性格の彼女は寂しさのせいか職場で問題を起こし、去年退職した。そして俺の家に押しかけ、俺の家族や友人と揉め事を起こすようになったため、俺は別れを決意した。
彼女から逃げるように、去年の暮れに引越しをしてからの寝不足だ。疲れも残る。
しかし本当に病気かもしれない。
俺はインターネットで、睡眠時無呼吸症候群について調べた。
正確な判定は病院でしてもらうしかないが、自分の睡眠中の姿を録画し、呼吸が止まっていないかどうかを見ればいい、とのことだ。
荷解きをする気力もなくほったらかしだった段ボール箱から、ハンディタイプのビデオカメラを取り出した。高校時代にバイト代で買った思い出の品だ。画質を下げれば8時間の録画が出来る。これで夜中の自分を確認しよう。
俺は全身が映るように、ベッドを見下ろせる位置にカメラをセットし、豆電球をつけ、眠りについた。
朝になった。やっぱり寝足りない。せき込んで一度起きたような記憶がある。
今日は日曜日。とりあえず朝飯を食おう。
冷蔵庫を開けた。昨日朝食用にとスーパーで弁当を1個余分に買ったと思ったが、無い。最近こんな記憶違いも多い。
俺はコートを羽織りスマホと財布を持って、24時間営業の牛丼屋に行った。
牛丼屋に着いて定食を頼み、スマホを取り出した、と思ったら間違えてカメラを持ってきていた。
まあいい、昨夜の自分を確認しよう。
すぐに定食が来た。食べながら見続けた。
再生する。ベッドに入る俺が映る。
早回ししながら再生する。画面の中の俺はちゃんと呼吸している。
変わり映えのしない光景が続き、もっと早回ししようと、俺は箸を置いた。
その時、画面の中にショートカットの女が現れた。別れた彼女だ。
眠る俺にのしかかり、掛布団越しに俺を窒息させようとしている。
画面の俺が布団を跳ね上げ激しく咳き込むと、彼女はベッドの下にさっと身を隠した。
俺が布団に入り直し寝息を立てるようになると、彼女は部屋を出た。冷蔵庫の開閉音とモノを食べる音がかすかに聞こえる。
少ししてバスルームの戸が閉まる音が聞こえ、後は静かになった。
ここに引っ越して来てから、近所の銭湯にばかり行って、家の風呂は使っていない。掃除するのが面倒だから。特に風呂桶の蓋は閉めたまま……。
とりあえず、病気じゃなかったことには安心した俺は、定食を半分以上残して店を出て、警察へと走った。
〈終〉
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