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宇宙では、あなたの声は(ほとんど)誰にも聞こえない─『No Man's Sky』というゲーム─

『No Man's Sky』とは?

 『No Man's Sky』(以下NMSと呼称)は、2016年にHello Gamesから発売されたゲームである。本作がどのようなジャンルであるかを明確に定義することは難しく、あえて例えるなら『Minecraft』や『Terraria』、『The Forest』のような探索・建築・戦闘を組み合わせた箱庭型アドベンチャーゲームに近いといえるだろう。
 オンライン専用タイトルではあるものの(一部のミッションやモードを除き)他プレイヤーとの交流は少なく、いわゆるオフ専のゲーマーも楽しめる作品に仕上がっている。

『NMS』の特徴

 何から何までランダム尽くしの『NMS』では、何度プレイしても飽きることのない新鮮な冒険が味わえる。本作を象徴する最大のポイントはやはりプロシージャル生成によって生み出される「ほぼ無限大のゲームマップ」だろう。探索できる惑星の数は184,467,447,379,551,616個にも及び、そのすべてがランダムに生成された独自の環境・生態系を持っている。放射性嵐が常に吹き荒れる不毛の惑星、地表の9割が海で満たされた水の惑星、大量の立方体が空に浮かぶ謎の惑星──プレイヤーはこれらすべてを探索することができる。
 また本作の必需品である宇宙船もゲーム開始時に入手できる一機を除いて全部が自動生成されるため、相棒となる船を探すことも旅の重要な目的となる。宇宙船には戦艦、輸送船、探査船、シャトルなど異なった特徴をもつ6種類が存在しているが、アップグレードを重ねていくにつれて差異は少なくなるため気に入った外見の船に資金をつぎ込むのがよいだろう。

銀河漂流

 『スターウォーズ』を観て、「このエキゾチックな世界を気ままに冒険したい」と思ったことはないだろうか。もしあなたがそのテの人物ならば、このゲームはとてもおすすめできる。雨が振り続ける肥沃なジャングル惑星から奇妙なエイリアンの卵が点在する灰色の衛星まで、『NMS』の世界には様々な環境が存在する。大嵐に巻き込まれて宇宙船のコクピットで一晩を過ごすこともあるし、放射性の台風すらものともしないミノタウロス・パワーアーマーに乗り込んで採掘に勤しむこともできる。
 この広い宇宙にはゲック(小柄なカエル種族)、ヴァイキーン(大柄でオークのごとき種族)、コーバックス(細身の機械種族)という3つの主要な知的生命体がおり、プレイヤーはそのすべてと交流できる。開始当初は会話を理解することすらままならないが、彼らから語彙を学び、辞書デバイスを使用し、モノリスから知識を得ることで次第に円滑なコミュニケーションが取れるようになっていく。
 また外見カスタマイズでも彼らは使用可能だ。あなたは商売上手の小さなゲックになって輸送艦隊の艦長として一山当てたいだろうか?それとも勇猛果敢なヴァイキーンの戦士として銀河を脅かす謎の「センチネル」に立ち向かいたいだろうか?あるいは好奇心旺盛なコーバックスの研究者として未開の惑星を探索したいだろうか?どれも本作では可能だし、両立することだってできる。

目覚め

 ゲームを開始して間もなく、あなたは不毛な惑星に放り出される。開始地点の惑星もまたランダムに選択されるが、高放射性や極低温といったある程度過酷な土地が選ばれるようだ。

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なぜここにいるのか、そもそもどこなのか……

 疑問は数多くあるが、エクソスーツ(宇宙服)やマルチツール(工具&武器)が故障しており、生命維持装置のバッテリーもギリギリのため考えている暇はない。まずは基礎素材であるフェライト塵を集め、スキャナーを修理しよう。するとソナーで周辺環境を測定できるようになる。黄色い「Na」の文字でマーキングされた植物を収穫し、生命維持装置をリチャージしよう。ここまで進行すると遠方に赤い菱形のクエストマーカーが表示されるようになり、そこであなたの最初の相棒と対面することになる。

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これがあなたを処女航海へと連れていく戦艦「ラディアント・ピラー BC1」だ。今はまだ火を噴いているが、修理すれば生涯の相棒になりうる。

 宇宙船を無事修理し、空へ飛び立てば最低限のチュートリアルは終了となり、(ほぼ)無限大の宇宙があなたを待ち受けている。種々のアイテムや設計図が入手できるサブクエストやストーリークエストもあるものの、これらは進行する必要性があるわけではない。(とはいえストーリーも面白いうえクリア時に受ける恩恵も大きいので進行して損はない)

めぐりあえない宇宙

前述したように本作はマルチプレイヤーゲームであり、当然探索中に他プレイヤーと遭遇する可能性もある。しかし184,467,447,379,551,616個というまさに天文学的な数の星で他人と出会う確率はとても低い。そこで交流の場、マルチプレイヤー・ハブとして用意された施設が「スペースアノマリー」だ。CO-OPミッションの受付、テクノロジー研究施設、様々なショップが並ぶ便利な施設だが、一番の特徴は「いつでもどこでも他プレイヤーと会える」ところだろう。宇宙空間なら好きなタイミングでスペースアノマリーを呼び出すことが可能で、内部は異次元空間であるためどれだけ離れた銀河にいるプレイヤーとも同じエリアに集合できる。

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「デス・スター」ではない。

 中に入るとまずは無数のプレイヤーと彼らの愛機が立ち並ぶハンガーが見えてくる。ここでは共に冒険するクルーを探したり、彼らの所有する高級で美しい宇宙船を眺めて羨んだりすることができる。二階にはスキャンした動植物や鉱物のデータを換金してくれるNPCや、設計図をアイテムと交換できるターミナルが設置されており、何度も世話になることだろう。

 コミュニケーションが苦手でも心配することはない。ネクサスミッション(マルチプレイ)のマッチメイキングは自動で行われ、マーカーを追ってミッション目標を達成しているうちに自然と連携が取れるうえ、わずらわしい開始と終了の挨拶などは不要だ。(そもそもプレイヤーたちの使用言語がバラバラすぎるのもあるが)スペースアノマリーの中では日本語・英語・中国語・ロシア語・ドイツ語等々非常に国際色豊かなダイアログが飛び交い、ペットが放し飼いにされ、誰かの荷物整理で余った資材を勝手にインベントリにねじ込まれるという逆スリさえ発生する。このゴチャゴチャした混沌の空間こそがMMOゲームの真髄だろう。

誰がために宇宙はある

 このゲームを楽しめる人は、筆者が思うに「旅行中の移動時間も含めて満喫できるタイプの人」ではないだろうか。車窓に映る景色が刻一刻と変化していき、やがて未知の新天地に到着するまでの、その一連のプロセス。そこに楽しみを見いだせる人にこそ、この『NMS』を薦めたい。

 ストーリーミッションの中を除いて本作で目的が提示されることは滅多にない。目的もなく宇宙中を放浪して回り、資源の豊かな惑星や美しい景観の惑星に基地を作ったり珍妙な動物をペットにする。そういった点では、『NMS』は「寄り道」が本質のゲームといえるのではないだろうか。ゴールまで一本の道が伸びているタイプの作品ではないからだ。ここまでの紹介で少しでも興味を抱いてもらえたならば、是非とも『NMS』の宇宙に飛び出してみてほしい。そして、ぶらり途中下船の旅に興じていただければ幸いだ。

毎日、あなたは宇宙の光と戯れているんだ。
──パブロ・ネルーダ(1904〜1973)

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