時のない駅におりたつ(続き)
早朝の打ち合わせで、電車で向かう途中、居眠りから覚めたら霧深い無人の駅に着いてしまった。
駅の待合室にいると、
大きな音と振動がした。
椅子から体が浮いたくらいだった。
突然、一匹カラスが飛んできて、
近くの手すりに止まった。
そして、なんと
カラスがしゃべりはじめた。
「びっくりしたよ、光るものを
さがして一晩中飛んでいたら、これだ。」
「居眠りをした隙に、この霧に引き寄せられてしまった。」
「おまえもそうだろう。」
カラスがことばを話すのに
なぜか違和感はなかった。
そして、聞いてみた。
「元の世界にもどりたいたいんだけど、
戻り方わかる?」
カラスが答えた。
「元いた世界のことを思い出すといい。」
「でも、なんでこの世界のことを知っているんだ。」
「カラスは両方の世界を行き来できるのさ。」
「早く、戻ろう。長居すると帰れなくなる。」
「わかった。」
打ち合わせ予定だった資料を
思い出してみる。
朝日が差し込みはじめ、
霧が晴れてきた。
駅には通勤客がチラホラ現れ、
カラスは「カー」と鳴いて飛んで
行ってしまった。
ありがとうカラス。
やっと戻れた。
コーヒー屋もシャッターを開け始めた。