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【空想物語】 都電荒川線 庚申塚駅の奇跡
ここは、都電荒川線の庚申塚駅。
信一郎は来ては過ぎていく電車を眺めていた。
戦争に行った父が帰ってこないかと思い
夕方になると出かけるのが、日課になっていた。
戦争も終わり、帰ってこないことは、うすうす
感じていたが、来てしまう。
電車から降りる人々、
そして誰もいなくなったガランとした駅。
信一郎が去ったあと、
駅の向こうから
お地蔵さんの声が聞こえてきた。
お地蔵さんは二人、仲良く並んでいた。
「お父さんは帰ってこないね。」
「そうだね。」
「今度、王子のキツネに頼んでみよう。」
「そうだね、そうしよう。」
次の日
信一郎はお父さんに再会できた。
お父さんはお地蔵さんに頼まれた狐だったが。
電灯の明かりのなかで、
お父さんと信一郎は話し始めた。
しばらくして
「お父さんは長居できないでしょう。わかっているよ。」
「大丈夫、みんな元気だよ。」信一郎は言った。
父はうなずいて、後から来た電車に乗った。
「さようなら、お父さん。」
「僕はもう大丈夫だよ。」
お地蔵さんたちの横で椿が風で揺れていた。
電車はしだいに遠くなり、そして消えていった。
都電 庚申塚駅の奇跡でした。
写真はcanvaのAIにつくってもらいました。
少し変だけど、情感があるかな。
改善の余地はありそうです。