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応天の門(明治座)

 灰原薬の同名漫画の舞台化です。
 ちょっと前に宝塚歌劇団月組で上演されたものを見ていたので、見比べたいという気持ちもあって観劇しました。

 舞台上に巨大な巻物が出てきてそこに章タイトルが映し出され、巻物が開くと舞台があらわれて物語が始まるという演出になっています。でも私の座った席(一階後方の操作盤横)からは文字がほぼ読み取れませんでした(笑)話はわかりやすいのでまったく差し支えありませんでしたが…。

 冒頭で舞台いっぱいを占める大きな平安京の模型が出てきて、長谷雄(はせお)役の中村莟玉が説明をします。天皇のいる建物がいちばん奥にあり、そこへつながる中央の道にいくつもの門があります。応天門というのは、その先には高級貴族たちの住む世界が広がっている、という下々と貴族社会の区切りになる門です。お話はこの応天門の内側で繰り広げられる平安貴族社会のドロドロを学問の力で切り抜けていく若き日の菅原道真とその仲間たちを描いています。

 単純化すると藤原家が悪者で、それに対抗する藤原以外の貴族たち(に属する在原業平と巻き込まれたくない道真)、という構図です。業平は藤原家の高子と相思相愛だったのですが藤原家は娘を天皇に嫁がせたので二人は結ばれなかった…という過去があります。道真は政治の争いに関わりたくなくて、ただ好きな学問を究めたいというスタンスです。

 私が一番好きだった場面は、業平が道真に「お前は何のために学問をするんだ?」と問いかける場面です。一人きりで書物に向かっていた道真が、事件に巻き込まれいろんな人に出会って、学問には人を助けることができるパワーがあるんだっていうことに気が付いて、やりがいを感じ始めながらもその力が政治に利用される可能性もあるのが嫌で、発揮することをためらっている。でも悩んだ末にやっぱり人を助けたいっていう答えにたどりつくのです。

 道真みたいに天才ではないですが、私も学ぶことが好きで、なんの必要性もないし役にも立たないけれど専門外の解説本とかを読むのが趣味です。経営学や、免疫学や、政治、歴史等…でも何のためにって言われたらわからないなぁと改めて考えてしまいました。世界を知りたいからですかね…。個人的には学ぶことそのものに価値があると思うので何かのためじゃなくてもいいと思うんですが、そんな中で道真が人を助けると決意したことに感動しました。

 宝塚版との違いでいうと、お花様(花總まり)のための場面以外は歌がなくてストレートプレイなこと、道真と業平のバディ感が強調されていたこと。西岡徳馬の伴善男がとても存在感のある大きな役になっていたことが印象的でした。逆に月組で大楠てらがやっていた大男の役を本物の男性が演じていても(ほぼ同じだな)って感じたことが驚きでした(笑)

 俳優さんの感想を言いますと、佐藤流司の媚びない感じと高橋克典の軽さ・面白さの対比が役にぴったりでしたし、お花様は相変わらず美しく二次元から飛び出してきたようでした。莟玉は歌舞伎以外の公演に出るのが初めてとはまったく思えない溶け込みぶりで頼もしかったです。また、すごく久しぶりに篠井英介を見て、おばあさんと公家の2役がいかにもなお役で嬉しくなってしまいました。


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