コアラのように

なんで自分がじっとしているのかわからないけど、なんかじっとしている
ということがある。
別にケガも病気もしていないのに
なんとなく、動けない。動かない。
(中略)
平気なつもりでも
平気じゃない
ということが、あるのである。
意識には感知されない何らかの嵐が収まるまで
私たちは、動けなくなるのである。

コアラのように
飲み込んだ熱い毒をおさめるところにおさめきるまで
のたのたーっと
あるいは
じーーーーーっと
していなければならないのである。


その嵐や毒が分解し、平衡状態がやってくると
再び、私たちは動けるようになる。
動けなくなったとき
自分を「コアラみたいだな・・・」と思ってみると
しばし、無我の境地を味わえる。
ぼーっとしているコアラや寝ているネコを
誰も「怠惰だ」と責めたりはしない。
それと同じように
じっとしている自分をとがめる気が失せる。

石井ゆかり「コアラ」 (「石井NP日記」 2012年9月17日)

筆者は、コアラはユーカリの葉に含まれる毒を時間をかけて分解・消化するためにのたーっとしているのだ、という話を聞いたという。初耳だったので、ほう・・・と思いながら読んでいたらわれわれ人間の話になり、自分のことになっていた。

私もあまり解毒能力が高い方ではないらしく、よく動けなくなる。若い頃は、何とかしなくてはと無理に動いたり動かしてもらったりしたものだ。やがてそんな気力がなくなったものの、動けなくなることに引け目を感じてきた。しかし、これを読んで、みんなそういうことがあるのか、と驚き、それでいいのか、と気が楽になった。

以来、動けない時は自己嫌悪に陥らず淡々と、じっとしている。そのうち、風邪で熱が出た時、おとなしく寝ていた方がウイルスや細菌との勝負が早くつくように、毒と戦っている時も、自分をそっとしておいた方が予後がよいことがわかり、ますます大手を振って? のたーっとできるようになった。

かくして私は本日もコアラである。   (2017. 3)

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