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本好きゆめの冒険譚 パラレルワールドエピローグ

 私がこの街に引っ越してきて何年経ったのでしょう?
 私は20才になっている。
 現在は国立の医大生になった。
 将来は病院を作りたいからである。

 その理由は過去の記憶にあった。
 パパの死因。「癌」。
 それに立ち向かう為に私は医療と癒しの能力を持っている。

 え?パパは生きてるじゃない?うん、確かに〈今は〉生きている。
 私が言っているのは、過去のパパの話。現在は元気であるし、私はパパとママが20代の時の子供だ。

 明らかに「流転前の世界」とは違う世界になったという事。
 でも、私の中の悲しみは消えない。いや、消えてはいけないのだと思う。

 今日はパパとママが緊張をしている。
 その二人も45才になっていて、それでも変わらずの仲がいい夫婦だ。
 その二人は私が最も愛し、尊敬し、目標でもある。
 私もこの二人のように幸せな家庭を築きたいからである。

 さて、何で二人が緊張しているのかと言うと、目の前に若い男性がいるからで・・・。
 年齢にして20才。私と同い年の人。同じ大学に通う医大生。
 そう、「あの男子」なのだ。だから、私は結婚をすると決めた。

 パパは緊張の為か何度もお茶を飲んではお代わりをしている。
 最終的には湯呑にお茶が入っていないのに気づいていないのか、何度も空の湯飲みを啜っている。

 ママは緊張というよりも、期待感でいっぱいのようだ。
 なんせ、娘が初めて「結婚を約束した男性」を連れて来たのだ。期待せずにいられない。

 パパがお茶を啜る音が途切れたのをきっかけに男性が口を開いた。
「お父さん!」
「君にお父さんと言われる筋合いはない!」と即座に言い返すパパ。
「パパ!」と注意をしてみる。
「スマン、このセリフを言ってみたかっただけなんだよ。ごめんね。」
「い、いえ。楽しいお父さんですね!」

「ゆめがいい人と言うんだから、僕もママも文句はないよ。よろしくね。」
「ありがとうございます。必ず、幸せになって見せます。」

「早く、孫の顔を見たいもんだ。なぁ、ゆめ。」
「もう、パパったら!」私は顔を赤らめた。
「そうと決まればみんなで食事にしましょう!今日は腕によりをかけて、美味しい物を作るわよ!」ママが張り切っている。
「ママ、私も手伝うよ。」二人でキッチンへと消えて行った。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎて彼が帰る時間となってしまった。
「それでは、そろそろ失礼します。」
「待ちなさい。ゆめ、お父さんとお母さんに会わせなくていいのかい?」
 パパの言葉に彼がびっくりしている。

「あの、お父さん、お母さんと言うのは?」
「ああ、実の親は僕達だよ。でもゆめには、もうひとつの父と母がいるんだよ。」
「解ったわ。今から会わせるから、パパとママも一緒に来てくれる?」
「ああ、いいとも。」

「ゼウス、いる?」
 ゆめの体が光り、一冊の本がゆめの中から空中へと浮かび上がった。

「え⁉ゆめちゃん、この本は?」
「初めまして、私の名前は「ゼウス」と申します。」
 浮かび上がる流暢に話す本に彼は驚きを隠せない。
「大丈夫、私に任せて!ゼウス、お願い!」
「畏まりました。ゆめ様。」
 ゼウスから光が放たれ、4人は吸収された・・。

 
ー***-


「何もない空間。」に3人がいる。
 理由はゆめが恋人を連れてくるからとの事だったから、うれしいやら、ゆめが遠くに行ってしまいそうだからと複雑な気持ちを抱えながらの出迎え。

「うわ!眩し!」彼の第一声はこれだった。
「よく来たの、お客人。」と若いのか年寄りなのか理解しがたい声がする。
 その声の主は、筋骨隆々の大柄・・・5m位の大男が2人、3m位の美しい女性が立っていた。

「来たわよ。お父さん、お母さん。」
「ゆめや、こちらの方は?」男性はたじろく事がなく・・・ではなく、ただただびっくりしているのと、信じられないと言う事からの態度だった。

 声の主は、創造神ゼウス。
 そして、最高位女神のヘーラー。
 もう一人は・・・。

「ゆめ殿、お久しゅうございます。ダイモーンでございます。」
「ダイモーンさんがここにいるってことは、今は幸せなのね。よかった。」
 ゆめはダイモーンが悪魔だった時と言うか悪魔に堕ちた理由を知っているから、母親のような目で、ダイモーンを見つめる。

 私がこの街に引っ越してきた時に、鳥になって出迎えてくれた3人だ。

「ハッハッハ!これでもダイモーンは苦労しとるよ。人間の欲は簡単にはいかんからな。」とゼウスはダイモーンをからかうように笑う。
「ちょっと、言うなよゼウス!ゆめ殿に本当の優しさを教えてもらっただけだ!」ダイモーンは照れくさそうにしている。
「ゆめちゃーん、お帰り。この人ね。あなたが結婚したい人って。」
「はい。お父さん、お母さん、そして「おじさん」。」
「私の事をおじさんと呼んでくださるとは・・・」ダイモーンは感無量に浸っている。

 ようやく、この状態は現実と理解した彼は、顔面蒼白になった。
 神ゼウスとヘーラー、ダイモーンがいるのだ。当たり前である。

「ところで・・・君よ。」ゼウスが彼を見るなり
「うちの娘をそなたにはやれん。」と一言。
「このジジイ!何言ってるの!」とヘーラーは一括をする。
「スマンスマン、一度、言いたかったんじゃ!」

「私たちに会いに来たという事は、結婚をしたいという気持ちは本当なのよね?」
 ヘーラーは彼に確認の為に問いただす。
「もちろんです!絶対に幸せになります!」
「もし、浮気をしたら…あなたを殺すからね。」
 ヘーラーの美しい声はドスの効いた凄みのある声色に変わっていた。
「彼氏さん、こいつは本当に殺るから、本気で受け止めてくれ。」

「そんな事よりも、食事を持ってきたの。」
 ゆめは「ゼウス」からクロワッサンとコンソメスープの入ったボトルを取り出した。
「ゆめちゃん!この料理、私達、大好きよ!」ヘーラーとゼウスの目が潤んでいる。
「おぉ、私も一度、食べてみたかったんですよ!話に聞いていた最後の晩餐を!」ダイモーンは興奮を抑えられない。

「ねぇ、みんなで食べるのなら、久しぶりに「あの場所」に行ってみない?」
 ヘーラーがおねだりをする。
 あの場所。「北風と太陽」の荒野だ。

「あそこに行くには環境を変えないとね。」
 ゆめは一冊の絵本を取り出し、右手を翳す。7人は光と共に本の中に吸い込まれて行った。

 その場所は全体に緑豊かで、心地よい暖かさの日差しと気持ちよい風がそよそよと吹いている。
「こんにちは~!」
 声を掛けてくるのは「旅人さん」だ。
 全員でピクニックを楽しんだ。


 それから5年後。私たちは結婚式を2度やった。
 勿論、「現実世界」と「何もない空間。」の2か所。
 ただ、「何もない空間。」が、ひどかった。
 なんせ、世界中、いや全宇宙から神々がやって来たのだ。もう、誰が誰だかわからない。宴会は5日間に渡って行われた。

 更に5年後、私たちは個人医院を持つことにした。
 その名も「カミ治療院」。
 街の人たちからの評判も上々で、この医者にかかると薬なしで病気が治るとか、大学病院に行かなくても、早期癌が発見できるとのうわさが流れ、今や大きな病院よりも予約でいっぱいである。

 パパとママはいまだ健在である。
 パパとママ?と言うより、「おじいちゃん、おばあちゃん」である。
 そう、私たちに息子が生まれていたのだ。

 現在、1歳。

 この子に、おじいちゃんは
「この家は、不思議な事がおこるらしいよ。」
 耳打ちをしていた。

 ー完ー

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