小説 ちひろ⑥
小説 ちひろ 第6話 可燃ごみと不燃ごみ①
私の住んでいるマンションは1DK。
OLをやっていた時に「心が死に」片付けられない人間になっていた。
部屋の中は、脱ぎっぱなしの服、食べかけの弁当やカップ麺、それらに虫が沸き、部屋の中をハエが飛んでいるありさま・・・。
それでも、掃除をする気にはなれなかった。
家に帰ると、ただ「沈むだけ」の生活だったからだ。
リフレッシュ?そんな言葉は、私とは真逆の人間が使う言葉だと思う。
私が「ちひろ」になり、変わった事があった。
少し、部屋が綺麗になった。久しぶりにカーテンと窓を開けるようになった。食べかけの弁当もハエも今は飛んでいない。
気分を変えようと熱帯魚を飼ってみた。
私は火が付きやすい性格なのだろうか、大きな水槽に、マニア顔負けの装備を「初心者」の私が買いそろえる。熱帯魚は、簡単に飼育出来るネオンテトラ30匹にした。
色鮮やかなライトに照らされて、キラキラと輝くネオンテトラ。私は部屋の明かりを付けないまま、何時間も眺めていた。
ぷちブルから帰って来て、真っ先に水槽に近づいて、泳ぐネオンテトラに癒される日々を送っていたのだけれど、ある日、一匹のネオンテトラが死んでいるのを発見してしまった・・・。
「これは可燃ごみだな。」ゴミ箱に捨てる。30匹いたネオンテトラは12匹まで減ってしまい、飼育を初めて一ヶ月後には、水槽一式を粗大ごみとして放り出した・・・。
どうやら、私は飽き性なのかも知れない。
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僕は花屋で、沢山ある花の中から何を送れば喜んでもらえるだろうかと物色している。
僕の名前は「大谷征一」。そこそこの会社のサラリーマンをしているのだが、学生時代から僕の周りには誰もいなく、「キモイ」「性格暗い」など言われ続けて育ってきた。
自分でも自覚がある・・・。
その為、会社でも目立たず、ひとりで仕事をすることが多かった。
ある時、ひとりで飲んだ帰り道、一軒のヘルスの店を見つけた。
「ファッションヘルス ぷちブル 明朗会計先払い 優良店」と看板に書いてある。
その看板を見ていると、「お兄さん、どうですか?うちは綺麗な子、可愛い子と揃ってますよ!」
はじめて、「風俗店」という店の暖簾をくぐった。
「どの子にします?」
「すみません、僕はこういう店は初めてなもんで・・・。」
「解りました!簡単にシステムを説明しますね!その間にどの子が好みか考えてください!もちろん、うちは無修正ですよ!」
「すみません、無修正とは?」
「どこの店でもやってる事なんですが、写真を撮る時にライトを強めに当てて顔のシワを飛ばしたり、若いころの写真を載せたり、ひどい時には体系まで画像修正ソフトでいじる事があるんですが、うちは全員、無加工・無修正なので、安心してください。」
一通り、説明を受けた後、
「どの嬢にするか、決まりましたか?」
「では、この「ちひろ」と言う人で・・・」
「お客さん、いい嬢を選びますね!この店のNo,1ですよ!本当は結構、遊んでるんじゃないですか?」とボーイがやらしい笑顔を向ける。
「本当に初めてなんですってば!」
「そういうことにしておきましょう!3番の部屋にどうぞ!なんなら、ご案内しましょうか?」相変わらずスケベな笑顔を向けてくる。
眼鏡をクイッと人差し指で直しなが、「オッ、お願いします。」不安と期待を胸にしながら、小走りにボーイの背中を追いかけた。
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「こんばんは。ちひろって言います。お客さん、こんな所は初めて?」
その「ちひろ」という嬢がニコニコしながら聞いてくる。
「は、ハイ。何をすれば良いのか、まったく解らないんです。」
ちひろは両手を合わせて「そうなんですかぁ〜大丈夫ですよ!私が全部やりますから。」
「まずは、名前を教えてくれる?」
「大谷征一です・・・。」
「じゃぁ、征ちゃんね!改めてよろしくね!」
僕は優しく服を脱がされる・・・女性に触れられるのは初めての経験で体が震える。
「どうしたの?寒い?」優しく気を使ってくれる・・・。
「い、いえ。」
すでに気持ちは天にも昇るような感覚になる。
僕は全裸で腰にタオルだけという恰好になっていて、いつの間にか、ちひろちゃんも裸にタオルという姿になっていた。
「まずは、シャワーね!こっちだから、ついて来て」と僕の手を握る。
初めて、女の子と手を繋いだ・・・!
ちひろちゃんは、僕の体を洗う為に腰のタオルを取ろうとするので、「や、やめてください!」と思わず、言ってしまった。
クスッとちひろちゃんは笑い、耳元で「大事な所なんだから、綺麗にしないと私がこまっちゃう。」僕が気を緩めた瞬間にタオルが剝がされた!
「ひっ!」と前を隠す僕の体を撫でまわすように触りながら、「大丈夫、私にまかせて。」と僕の両腕をほどいて、ボディーソープのついた手で、まんべんなくスリスリと洗っていく・・・。
「あっ、そんな事、それ以上されると僕は!僕はぁ~!」
・・・果ててしまった。
ちひろちゃんは相変わらず笑顔を絶やさない。
僕を部屋まで連れて行ってくれた。もちろん、手を繋いで・・・。
「征ちゃん…私を見て。」ちひろちゃんは、自らのタオルをほどき、顕にした体を見せてきた…。
その肌は透き通るように白く、優しく僕を見つめている。
柔らかな乳房、なま暖かな体、そしていい匂い・・・。
そんな「天使のような」彼女が、今、僕の腕に抱かれている・・・。
僕は、ちひろちゃんに会うために週の大半はぷちブルに通うようになった。
ある時、僕はちひろちゃんに「花束」をあげた。バスケットに入ってるやつ。そんなに高くないやつ。
花屋の店員にお名前を入れましょうか?と聞かれたのだが、「ちひろさん」だけでは、完全に夜の商売の子に送るのがバレてしまうので「山下ちひろでお願いします。」
「アハハハ、私、山下ちひろって言うんだ!」とちひろは大笑い。
「ごめん、苗字を知らなかったから、とっさに嘘をついたんです。」と嘘をついた。
「でも、嬉しい!私、花束を貰ったの初めてだから!」
「そ、そうだよね。もっと高いバッグとかを貰ってるんだもんね・・・。」
そう、落ち込んでる僕に
「ううん、ありがとう。」耳元でささやきながら、キスをしてくれた。
僕は完全に天使に恋をしてしまった。