小説 本好きゆめの冒険譚 第六十六頁
私も中学生になり、今日は「入学式」。
相変わらず、パパはビデオカメラを回し、ママはハンカチで涙を拭う。
入学祝いに最新のゲーム機を買ってくれた。
でも、ソフトは?と聞くと
含み笑いのパパが取り出したのは、あの有名なRPGゲーム!制作発表から遅れに遅れ、やっと発売したから、私と一緒にやりたかったんだと、パパが言ってた。
内容と言うのは、以前にパパが書いてくれたお話のようで、勇者が魔王討伐をして、世界を救うという噺。
これから、パパと楽しいゲームの時間・・・
私は「草原」に大の字で寝ていた・・・
そこに優しそうな青年が声を掛けて来て…
「君、大丈夫かい?」と、手を差し伸べてきた!
私は顔を真っ赤にし、
「だ、大丈夫です…。」
「おーい!勇者様!俺たちを置いていくなよ!」
「ごめんゴメン、女の子が倒れてるのが見えた物で…」
どうやら、この2人は仲間なんだろう…え?「勇者?」
「君はこの辺の娘かい?でも、何だか見慣れない格好をしてるね。」
そりゃそうだ、私は「剣と魔法の世界」から、程遠い世界の住民…。このゲームのプレイヤーなのだから…。
「だっ、大丈夫です!助けて頂きありがとうごさいます!どうぞ旅を続けて下さい!」
と、言って逃げる様にその場を離れた…。
「何だったんだ?あの娘?」
「さぁ〜、勇者様に惚れたんじゃないか?」
「ばっ、馬鹿を言うな!行くぞ!」
勇者様御一行の姿が見えなくなるのを確認して、現実世界に戻る。
やっぱり、現実世界の時間は止まってる。「銀河鉄道の夜」の時と同じ現象だ…しかし、何で?本なら納得行くけど、ゲームよ?ゲーム。
「これは、確かめなければ…」
私はお父さんに会いに行く。
「何もない空間」。
「お父さん、聞きたい事があるんだけど?」
「なんじゃ、ゆめ。」
ゲームの中に入った事を話すと、
「そりゃそうじゃ!ゆめの能力は、もはや本だけに限らん様になっとるからの!」
お父さんは腹を抱えながら説明をしてくれる。
「簡単な事じゃ、そのゲームもストーリーがあるんじゃないかの?」
確かにRPGゲームは、勇者が魔王を討伐するまでの噺。
「ゆめは、物語全般にも干渉出来るのじゃよ。」
「どうすれば、世界の中に入らなくて済むようになるの?」
「それは、ゆめ次第じゃな。ゆめはまだ、自分の力の制御が出来ておらん。訓練次第で、制御出来るようになるから、まずは「集中して集中しない」ことじゃ。」
「それじゃあ、ゲームを楽しめないよ〜!」
「なに制御出来るようになれば、ゲームも楽しめようぞ。」
「そんな物なの?」
「そんな物じゃ。」
「現実世界」。
時間を動かすと、パパの腕をつかんで、事の顛末を説明する。
結果、パパだけがゲームを楽しんだ。
私は隣で見てるだけ…。
人がやっているRPGゲームを見ている・・・これは、つまらん。
パパがゲームをクリアした後、私が挑戦!と言っても、「集中しないように集中する訓練。」人のプレイを見るのと、自分でやるのは、大違い!結構難しい!
隣でパパがアドバイスをしてくれるけど、私は集中してはいけないから、直ぐにやられる。さっきは「スライム」に負けた…。
「パパぁ、魔王に勝つためには、どうしたらいいの?」
「そりゃ、レベル上げと、防具と武器だな。」
「どの武器が一番強いの?」
「そりゃ、『聖剣エクスカリバー』だな!ただ、この剣は岩に刺さっていてな、勇者と認められた人のみが抜けるんだよ。」
ゆめは「時間を止めた」。
確か、「聖剣エクスカリバー」は、お父さんが、持ってたはず!私の「カスタム桃太郎」の時、桃太郎に持たせたんだもの!
ゆめは、「何もない空間」。に行くと、ゼウスに慌てて…。
「お父さん、聖剣エクスカリバーちょうだい!」
「なんじゃ?唐突に?」
「私の桃太郎の噺の時に、お父さんに持たせたあの剣の事だよ!」
「ああ、あの剣なら、ここにはないぞ。」
「え?なんで?」
「ゆめが、ちゃんとした「桃太郎」の噺を聞いて、儂を元に戻してくれたじゃろ?あの時に消滅したんじゃよ。」
「じゃあ、聖剣エクスカリバーは?」
「ない。」
「そんな〜!」
「エクスカリバーなんぞ、何につかうんじゃ?悪戯はいかんぞ?」
「違うよ!ゲームで勝てないから、強い武器が欲しいだけ。」
「そうかそうか!楽しんどると言うか苦戦しとるのか、ププッ。」
「お父さん、今、笑ったよね。」
「笑っとらん。」
「絶対に笑った。」
「笑っとらんて。」
「どうせ、私は下手くそですよ!」
ゆめは消えてしまった…。
「あ〜あ、怒らせちゃった!」
ヘーラーが嬉しそうに言う。
「次会った時は「お父さんなんてキライ」って言われて無視されるわよ。」
「ゆめー!そんなつもりはなかったんじゃー!怒らんでくれ!儂が悪かった!」
空間の歪みに向かって叫ぶゼウスだった。
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