小説 本好きゆめの冒険譚 第七十四頁
ゆめの「厨二病」も何とかおさまり、
高校生になった。
成績は「中の上」。決して悪くはない。
と言うのも、この高校は県屈指の進学校…。偏差値も高く、なかなか通らない「狭き門」の学校なのだ。
高校でも、ゆめは「帰宅部」。
学校が終われば、家に帰る―そんな毎日である。
ゆめは元々、両親が高齢の時に授かった子供なので、ゆめが成長していくのに反比例して両親の体は思わしくなく、ちょっとしたことで床に伏せる。そんな生活になっていた。
ある日、パパが胃が痛いと病院に診てもらったら、癌だと判明した。
ステージ2・・・、手術をすれば大丈夫との事だったが、転移している可能性もあるかも知れないとの事だった。
ママは告知を受けた時に一瞬、戸惑いの表情をしたが、冷静に医師の話を聞いていた。
「・・・どうしょう、パパが死んじゃう。」
お父さん、お母さんに何とかならないか?の相談を持ちかけたが、「それが人間の運命《さだめ》と言うもの、受け入れるんじゃ。」
「医療と癒やしの神は確かにおる。しかし、特別扱いは出来ん。諦めよ。」
「じゃあ、パパは・・・」
「そういう事じゃ・・・」
―私の力で何とかならないの・か・・・?―
手術当日。
パパが、ストレッチャーに乗り手術室へ。
手術中のランプが灯った。
その瞬間、時間を止めた・・・。
荒野。「北風と太陽」の地。
もっとも、今は「旅人」しかいないのだか・・。
私は、ゼウスを呼び出しパパを記録させた。
そして、癌と思われる場所を消して行く・・・。
消えた!と思ったら、また浮かび上がる文字列。
何度も消すが、浮かび上がる。
「嘘・・・。」
ゆめは、何もできない自分の力を責めた。
これが、運命という奴か・・・
荒野から手術室へ戻った・・・。
ママは懸命に祈りを捧げている。いるのだが・・・
パパの運命を知ってしまったゆめは、何の言葉もかけられなかった。
手術が終わる―。
私達は個室に呼び出された。
開腹をしたが、手を付けられる状態ではなかったので、すぐに閉じてしまったと言う。
後何日生きられるか分からないとの事だった。
数週間後・・・
私は、いつものように学校へ行き、ベルと共に走って帰る。玄関の前で息を整え、いつものように「ただいま!」とパパに話しかける。
「…ああ、ゆめ。お帰り…」
痩せ細った頼りないパパの声…。
私は泣きそうになるのを堪えて笑顔を向ける。
「ゆめ、」
「なに?パパ。」
「僕達の所に生まれて来てくれて、ありがとうね。ゆめだけが、僕の生きがいだったんだ。こんなに大きくなって、パパは嬉しいよ…」か細い声で話す。
「何言ってるの?パパ。ウェディングドレスの私や孫の顔も見ないと駄目でしょう?」
「ああ、そうだな…ありがとう…」
「ゆめ、お願いがあるんだ…。」
「なに?パパ。」
「もう一度、女神様になってくれないか?大人のゆめを見たいんだ…。」
ゆめは「女神バージョン」、ペガサスの羽、虹色の瞳、髪色に変身した。
「あぁ…。ゆめ、綺麗だよ…。君がお嫁さんになるところが見たかったよ…。」
ゆめは手を握りしめ、「絶対、パパが気に入るような素敵な人と結婚して、パパとママと同じぐらい幸せになるからね!」
「楽しみだな…。」
パパの息が止まった…。
「パパ…。」
私は慌ててママを呼んだのだけど、何が起こったのかを悟ったママはキッチンから出ようとしない…。
私とママは、一晩中泣きながらパパの骸を抱きしめた。
パパの身体―。つめたい・・・
葬儀も終わり、家に帰るとママは後を追うように倒れ…旅立った―。
「パパ、ママ。大好きだよ。ありがとう。」
墓前に手を合わせる…。
私は、「医療の本」を片っ端から、読み漁った。
こんな悲しみを、他の人にさせてたまるか!
私が、皆を守るんだ!
―そう思いながら…。