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小説 本好きゆめの冒険譚 第七十九頁

 神々の視線がゆめに集まった。

「ゆ、ゆめ…何故、来た…?」
 ゼウスがしまったとばかりに口を開く。

「お父さん、お母さんと一緒にご飯を食べようと思って・・・。」

 神の一人が気付いた。

「ゆめ殿では、いけるのではないか!?」
 ヒソヒソと話合いが始まった。

「ゆめだけは駄目じゃ!」
 ゼウスが声を荒げる。

「しかし、神々の加護を受けた今のゆめ殿ならば、この危機を救ってくださる可能性があるのだぞ!」

 神々の皆が賛同した。

「危機?可能性?何の話をしているの?」
 ゆめが不思議そうに尋ねると

「ゆめ殿は知らぬのか?今、世界で起こっている事が。」

「何の事?」

「悪魔ダイモーンが復活したんだ!世界中で、人間が奴の養分となって消えているんだ!」

 ゆめはテレビのニュースを思い出した。
 あの事か・・・。

「その悪魔と私と何の関係があるの?」

「解らんのか?」

「はい。」

「ダイモーン討伐は「現実世界不干渉」の我々、いや、力のない我々では不可能なんだよ。」

 ゆめは不思議そうに
「私の方が力がないはずですけど・・・」

「確かに難しいかも知れん・・・しかし今は、ゆめ殿に託すしかないんだ!」

 神々が訴えるように話を進める。ゼウスは、俯きながら、何も言わない・・・。

「お父さん、お母さん・・・」

 ヘーラーが、ヒステリー気味に、神々に訴えるように叫ぶ。

「ゆめは私達神々の力を授けた唯一の人間、言わば我々の娘なのです!その娘に死地へ向かえと言うのですか!それでも貴方がたは神ですか!私は反対です!可愛い我が子を送れません!」

 話を聞いているうちに、ゆめにも神々が何を言わんとしているのかが解ってきた。

「私に悪魔討伐をしろと言うのですか?」

 神々が、一同に黙り込む。


「そういう事じゃよ、ゆめ。」


 口を開いたのは意外にも「お父さん」だった・・・。

「ゆめや、お前は我々の加護、いや、「力」を取り込んでおる。しかも一人だけの力ではない・・・この意味がわかるかの?」

 いつものように、ゼウスは優しく話す。

「貴方・・・」
 ヘーラーは悲しそうに、ゆめを見つめた。

「ゆめは、今や我々神々の中では最強と言われる存在となっておる。今、悪魔討伐が出来るのは、ゆめ、お前だけなのじゃよ。」

「私に悪魔と戦えと言うの?」
 ゆめは全身の血が引いて行くのを感じ、恐怖から身体の震えが、止まらない・・・。

「そうじゃ、我々もゆめに出来るだけの支援をしてやる。ゆめしかいないんじゃ。頼まれてくれんか?」

「お父さん…ひどいよ・・・。」

 永遠とも感じる時間が過ぎた・・・
 神々は固唾を飲みながらゆめを見ている・・・

「少し、考えさせて・・・」

 ゆめは消えてしまった。


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