小説「オチルマケル」削除ネタ0011
0011 僕達、親友!
ウルル湖のヌシを倒した数日後、僕たちは父様に呼び出され、ボルヌィーツ邸の客間にいる。
そこには、父様の他にミラー卿、そして体格のいい男性と美しき女性の姿があった・・・いや、この二人は人間ではない。獣耳と尻尾があり、口元からは牙も見えていた。
父様は僕達に座りなさいとソファーに促す。口を開いたのはミラー卿だった。
「リアから聞いたよ。湖に住むヌシから守ってくれたって。」
ミラー卿はありがとうと頭を深々と下げている。
「本当なのか?」と父様は僕達に真意を確かめて来る。
「本当の事です。」ガキ大将のクリスが答えた。
「どういう経緯でこうなったかを教えてもらえないだろうか?」
「それは・・・俺が剣で切りました!」クリスは僕を守ろうと、必死に嘘でごまかそうとしてくれているようだ。
父様は、短くため息をつくと、
「クリス、君は良い奴だ。友達を庇っているのだろう?私は君の実力では、あのヌシを倒すことは出来ない。もし倒せたとしても、あの切り口を見れば剣による斬撃とは思えないのだよ。あれは魔法で切られたはずだ。現に魔力が死体に残っていた。」
父様はクリスの顔を見ながら話していると思っていたら、明らかに僕を見ている。
バレているのだ。
「それでも、俺が・・・。」
「ユキ、本当の事を話してもらえるか?」
僕は、少し黙っていた。父様は僕の能力を知っている。それは当然の話だ。
「僕がやりました。」
「だろうな。実はミラー卿以外にも、君達に礼を言いたい人物がいる。」
そう言うと、体格のいい男性と美しき女性が前に出て、
「君があの『イール』を倒してくれたんだな!実はあのモンスターのせいで、同族が何人も食べられてしまって、主食の魚の猟も出来なくなっていたのだ。これで、食料危機から解放される!本当にありがとう!」
え?僕たちは、てっきり怒られるものだと思っていたのだけれど、感謝されてしまった。
「い、いえ、僕たちはリアを助ける事に必死だったのですから!」
そこにすかさずミラー卿が、
「ユキオ殿がリアを助けてくれたのか!本当にありがとう!恩に着る!」
深々と頭を下げられてしまった。
「そこで、お礼がしたい。」獣人の男性、ガルフさんが、女性の背中を押し、
「こ奴を、名前をシリカと言うのだが、君に授けたいと思う。どうか、君の従者として使って欲しい。」
「主様、どうか、よろしくお願いします。」
シリカさんは、敬意の姿勢で胸に手をやり頭を下げ、目を瞑っている。
「「「ええー!」」」
僕が驚くのは当然だけど、他の連中も驚いている。
特にリアとリリスが絶叫に近い声を上げていた。
「ちょっと待ってください!おじさま!何でユキにこんなお姉さんが付くのですか!」
「そうですわ!お父様!ユキ様にお嫁さんなど、早すぎますわ!」
二人の必死の声にミラー卿とガルフは笑いを隠せず、
「嫁ではない。従者だ。そういう所を見ると、二人はユキオ殿のお嫁さんになりたいのかな?」
ミラー卿の言葉に、自分たちが何を言ったのか理解した二人は、顔を真っ赤に染め、
「い、いえ、そんなこと・・・。」もじもじとしている光景を見て、大人たちは大笑いをしていた。
「この方達の部族を滅びから救ったのだ。それ位、当たり前の事だ。ユキよ、この娘を従者にしてやりなさい。」
僕の心の中は・・・
(えー!憧れのケモミミ娘だ!それに、あのふさふさの尻尾!モフモフしたい!甘えたい!いや、むしろ甘えて欲しい!それに可愛いし、スタイルもいい!是非とも一緒にお風呂に入って、同じベッドに寝て・・・。あっ、そんなところを触ってはイケません!奥さん、奥さーん!)
色々な事を妄想していると、顔が緩んでしまっていた。
「・・・キ」
「・・キ・・。」
「おい、ユキ!どうなんだ!従者にするのか、どうなんだ!」
父様に言われたのなら、仕方がない、そう、仕方がないのだ。うん。
「謹んでお受けいたします!」
うっ、みんなの視線が痛い!特にリアとリリスの視線が痛い!
「全身全霊、心身ともにお仕え致します!主様!」
こうして、シリカは僕の従者となったのだ。
シリカは僕の従者として、女中の一人となってもらった。
シリカはよく働く娘で、女中達ともすぐに仲良くなった。
ただ、僕が邸宅にいると、僕の傍から離れないし、外に遊びに行く時も付いてくる。
しかし、そこは獣人、なんの問題もない。それどころか、その身体能力故に、僕達を圧倒していた。
最初こそ、よそよそしく、敵意むき出しのリアとリリスも自然と心を許し、今では友達の一人として遊んでいる。
シリカに魔法は使えるの?と聞くと、魔法は使えないらしい。
しかし、感じる魔力は膨大なのが分かるのだが、その魔力は優れた身体能力に使われているのだと分かった。
せっかく魔力があるのだから、魔法を覚えてもらいたい!僕が邸宅にいる時は魔導書を読み聞かせ、魔法の基礎を教え込んだ。
おかげで、今では火を起こすなどの生活魔法程度は出来るようになっていた。
僕たちは・・・と言うと、
「火炎弾!」
「真空刃!」
「砂竜巻!」
「光槍!」
僕の魔法教育の成果が出ている。
そう、皆はエルフ言語の魔法を駆使し、面倒な詠唱を失くし、発動キーだけで魔法を行使出来る所まで成長したのだ。
「私だけ、何もできていない・・・。」とリアが半泣きで言った。
そんなことはないよと慰めていると、勝手に模擬戦をして怪我をしたリリスがやって来た。
「大丈夫かい?」
「大したことはないわ!でも、跡が残りそうね!」
「それは大変!私には何もできませんが、せめてお祈りだけでもさせてください。」
リアは両手を組み、祈り始めるとリアを白い光が包み込んだ。その光をリリスの傷口へと注ぐと、リリスの傷口はキレイに治ってしまったのだ。
治癒魔法である。
「リアちゃん、すごーい!傷が治っちゃった!」傷が治ったリリスは、今度は負けないわよ!と模擬戦を開始するのだった。
しかし、当のリアは何が起こったのか、解ってない様子。
「私は何をしたのでしょう?」
「リアちゃん、すごいよ!治癒魔法が使えるなんて、普通は王族しか使えないんだよ!」
「え?私は王族ですが・・・。」
「え?」
「え?」
「「「申し訳ございませんでしたー!」」」
土下座をしているのはリアに平服している僕達である。
「まさか、王族とは知らず、なれなれしい言動をお許しください!」
その姿にリアは動揺を隠せず、あたふたしている。
「やめてください。王族と言っても、末席の身分で、一貴族と変わりありませんから、お願いですから、頭を上げてください!」
「僕達は首を刎ねられるのでしょうか?ですが、親には手出しをしないようにお願いします!」
「そんな事、しませんから!頭を上げて下さい。」
半泣きの僕達は恐る恐る、顔を上げた。
「私は皆さんに感謝こそあれ、憎しみなんてありませんよ。どうかこれからも今までと同じように遊んでくださいませ。」
僕たちは土下座をまだ崩せない。そんな僕達を見かねてリアが言った。
「そうですね、悪いと思っているのなら、これから私の事はリアと呼び捨てにしてください。皆さんと同じように遊ぶ友達として、いいえ、『親友』なのですから。」
「「「リアちゃ~ん!」」」
「リアです!」少しの沈黙の後、僕たちは吹き出した!大笑いである。
「じゃあ、今から何して遊ぶ?リア!」クリスがリアに声を掛けた。
「そうですわね、また川で釣りをしたいですわ!」
「よーし、誰が一番デカいのを釣るか、勝負しようぜ!」
僕達は川に向かって走り出したのだった。