見出し画像

小説 本好きゆめの冒険譚 第四十八頁

 お昼休みの学校の図書館にて…

「すみません。借りてた本を失くしてしまって…」

 そう謝っているのは、ゆめである。

「それで同じ本をパパに買ってもらいましたので、これで、許してください!」

 一冊の本を先生に手渡す。

 その本のタイトルは「北風と太陽」。
 ゆめが、干渉している世界が書いてある絵本と同じ物だ。

 先生は、無理をしないようにと、注意だけして、本を受け取った。

 図書館を後にしながら、鞄から本を取り出す。

「北風と太陽」。

「こっちの本を渡してしまうと、大変な事になるからね。」

 説明すると、同じ本は沢山ある訳で、それぞれには生命はない。だが、ゆめが干渉した時点で、その1冊の本の世界のみが、生命と共に宇宙の何処かで生まれると言う事。

 故に、他の人間が意識しても、その世界は生まれない。ゆめだけの「力」である。


 この所、「何もない空間。」には行っていない。

 家で、本の中に入り練習もしているのだが、

「どうしよう…」

 そう、ため息を付いている訳は、パパが、もう一度「お父さん」に会いたいと言っているからだ。

 パパはお父さんに何するつもりだろうと考えると、胸がムズムズして、行く気になれないのだ。


 5時限目は国語の授業。

 今日からは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を勉強していく。

 本を勉強していく内に、ゆめの頭の中には、星空いっぱいの世界を汽車がゆっくりと走る、そんな光景が、頭に浮かんだ


・・・そう、頭に浮かんだ「だけ」のはず


 だから、何で私は汽車に乗っているの!


 その汽車は、木で出来ているのか、木目のある内装。ランプの照明がアンティークな感じ。窓から外に目を移すと、月明りと星々に照らされた、のどかな田園風景が眼下に映る。

 車輌の扉が開き、赤い帽子を被った車掌が、入って来た。

「切符を拝見いたします。」

…どうしよう…、切符持ってない…

「すみません、切符を失くしちゃって…」

「では、ここで買うことが出来ます。」

「あの、幾らですか?」

「百円になります。」

 100円なら、今持ってるけど、大丈夫かな?
 と、思いつつ、「100円玉」を取り出した。

 車掌に「100円玉」を渡そうと手を出すが、
 車掌の手に渡る時には「百円札」になっていた。 

「あの、この汽車は、何処に向かっているのですか?」

「南十字星ですよ。可愛いお客さん。」

 宇宙の空を走る「銀河鉄道」。
 ゆっくりとした時間が流れ、汽車の汽笛の音や揺れも心地良い。

「はっ!」

 こんな所で落ち着いている場合ではない!
 学校に帰らなくては!

 ゆめは、左手を突き上げ「帰還!」と叫んだ。

 教室に戻って来たゆめは、周りを見渡すと、時間が止まってる事に気がついて、パン、と手を鳴らした。

 いつも通りの、授業が再開された…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 宇宙を駆ける汽車の車輌内に、少女の姿が見えず

「あれ?お嬢さん、どちらに行かれました?」

 と、ゆめを探す車掌の姿があった。


いいなと思ったら応援しよう!