小説 本好きゆめの冒険譚 第六十一頁
「お久しぶりです、ゼウス様!」
全身、鎧を纏い完全武装しているその女性は緊張しているのか、直立不動である。
「お前もなアストライアー。」
「ヘーラー様も、お久しぶりです!」
深々とお辞儀をしながら、挨拶をしている。
「今日は、無理を言って悪かったわね。」
ヘーラーもねぎらいの言葉をかける。
「いえ、お呼びとあらば、直ちに駆けつけます!」
緊張が解けたのか、少し笑みを浮かべた顔になった。
「ゆめ、紹介しよう。彼女の名前はアストライアー。正義の加護を持つ女神じゃ!」
「はじめまして!ゆめ殿!」
またもや、直立不動で、挨拶をする。
アストライアーさん、お母さんには敵わないけど、それでも綺麗な女神様だな…。
「は、初めまして…あの、「殿」は、止めてもらっていいですか?私は神でもなんでもない、ただの人間ですから…。」
「なんと!ゼウス様と、ヘーラー様の間に人間がお生まれになるとは!」
「アストライアー!この子はの、儂らが娘の様に可愛がってはおるが、本当の娘ではない。ちゃんと親はおるぞ。」
「しかし、お二人が、目をかける程の人間がいるのでしょうか?」
「それが、このゆめじゃ。儂と同レベルの力を持っておるぞ。」
「なんと!これは、失礼しました!ゆめ殿!」
「あの、だから、殿は止めてくれると嬉しいです。」
「解りました!ゆめ殿!」
アストライアーは片肘を地に付け、ゆめにひれ伏す。
「それで、お前を呼んだのは他でもない…」
「畏まりました!」
と言って、私の頭に手を翳すと、私の中で、変化が起こった。
「完了致しました!」
「うむ、ご苦労。」
「では、失礼します!」
そう言い残して、アストライアーは、去って行った。
「やれやれ、相変わらずせわしない奴じゃ。」
「でも、仕事は早いわ。」
「ゆめや、アストライアーの力は正義の加護じゃ。それをお前に授けたのは他でもない、ゆめの為なんじゃよ。」
「どういうこと?お父さん。」
「この先、ゆめにどんな誘惑があるかもしれん、その時々で正しい判断がで出来るようにしてもらう為じゃ。」
「まぁ、そんなに硬く考えなくてもよい。学校で学ぶ「道徳」みたいなものじゃな。」
「これからも、正しい人生を送れるように。そのための加護じゃよ。」
「はい。わかりました。」
と、言ったものの、実はゼウスの後ろでソワソワしているヘーラーが気になって、ゼウスの話が全く入って来なかった。