小説 本好きゆめの冒険譚 第七十八頁
ゆめはベッドの上で、ゴロゴロと動いたり、起き上がったりして・・・を繰り返している。眠れないのだ。
「味のしない食事」を食べたのだが、満足感がない。ゆめは、「あの頃」を思い出すのが癖になっていた。
朝になると、ママが微笑みながら起こしに来てくれて、リビングに下りると、「ゆめ、おはよう。」と優しい目で言ってくれるパパ。
ママの手作りの朝ごはん…そう言えば、一ヶ月で同じ物は一度も出なかったんだっけ…量も多いし、食べきれないって言ったら「そんなことじゃ、大きくなれないわよ。」っていつも言われてたっけ…。
パパと二人で必死に食べるんだけど、リスのようにほっぺたが膨らんでる私の顔を見て、いつもパパは吹き出してたな…。
二人の事を思い出しては涙ぐむ…。これが最近のゆめの習慣になっていた。
「パパ、ママ、会いたいよぉ…」
「何もない空間。」にいる「お父さん、お母さん」の事を思い出した。本気で医学に取り組み始めた頃から、忙しい毎日だったので、最近は会いに行ってなかったのだ。
お父さんとお母さんと一緒にご飯を食べたら楽しく、そして美味しく食べられるかも知れない・・・
そう思うと、居ても立っても居られないようになり、ゆめの頭の中は「期待」で、一杯になった。
「何か作らないと・・・あっ、そうだ!」
「初めて、一緒に食べたものがいいな!パンにしようっと!」
今までは、頭の中の記憶をゼウスがアウトプットするといった「架空のパン」、今回は「本物」を持って行ってあげよう!
ゆめは、バタバタと足音を立ててキッチンへと向かい、パンを作る準備を始める…何のパンにしようかしら?今のゆめには、そんな事を考える時間さえ、楽しい・・・
「あっ、クロワッサン!お母さんが好きなパンでどうかしら?」
ゆめはパン生地をこねだした。
クロワッサンと言うのは、とにかく「生地が薄い」。ゆめは、生地が破けませんように、破けませんようにと、呪文のように唱えながら、生地を伸ばしていく…破れた。
「まっ、これも味のうちよね!」
そう言いながら伸ばした生地を重ねて、クロワッサンの形に近づけて行く。
「後は、焼いてオシマイ!」
熱したオーブンで焼いていくのだが、その横でまた生地をこねだした。
「お母さん食いしん坊だから、沢山作らなきゃ!」
合計100個のクロワッサンの完成。
コンソメスープを水筒に入れる。
「コポコポコポ」と言う音に合わせてスープの匂いが立ち込める・・・。
「うん!我ながらよく出来たと思う!」
ひとりで仁王立ちをして、高笑いをする。
「後は、持って行くだけ…ゼウスいる?」
体の中から、ゼウスが出てきて、「はい、ゆめ様。」
「このパンと、スープを取り込んで。」
「どちらに向かわれるのですか?」
「お父さんとお母さんの所よ。」
「ゆめ様、申し上げにくいのですが…今は行かれない方が良いと私は思います。」
「どうしたの?」
「なにやら、不穏な空気を感じまして…」
「また、ケンカしたのね!そんな時は美味しい物を食べるに限るわ!行くわよ、ゼウス!」
「…畏まりました。」
ゆめはその場から、光と共に姿を消す。
「何もない空間」。
「久しぶりだわ!」
皆で美味しいご飯を食べるんだ、私の手づくりって言ったら、お父さん、お母さん、喜ぶだろうな。
目を開けると・・・
「何もない空間」。に大きな円卓。そして、円卓を囲むように大人数の神様達・・・。
ゆめは、何事と思い声を掛けた。
「お父さん、皆さん、どうしたの?」