小説「オチルマケル」ボツネタ004
こんにちは!
今回から採用したものとはかなり違ってきましたね。
ここで掲載しているのは魔法で「いかに無詠唱で発動するか?」の
説明会になっています。
と、言うのも、詠唱魔法には必ず「公文」があると思うんですよね。
方程式みたいなあ…。
なので、いかにもありそうな感じの理屈を書いてみました。
***ここから本文***
0004 水魔法
僕は5才になった。
老婆が去って2年の間に何度も魔導書を読み返し、解った事がある。
例えば水魔法を単純に日本語に訳すと
「いでよ〈水〉」《・・・》『水!』と言った具合。
いでよ水が発動キーで《・・・》がどんな形かのイメージ。『水!』は命令文だ。
じゃあ、〈水〉と『水!』どちらも水なのだから、片方は要らないのでは?と考える。
試しに〈水〉を詠唱から省いて水魔法を発動する。水は出なかった。
では『水!』を省いてみてはどうか?やって見ると狙い通りに水が出た。
今度は、「いでよ〈水〉」を詠唱なしで出来るかの実験。
最初は全くでなかったので、諦めようと手を見ると水滴があったので、魔力量を上げる事にした。
魔力量の調節は、スピーカーのボリュームのつまみを回すイメージ。
少し、ボリュームを上げる。さっきと余り変わらない。
ボリュームを中ぐらいにしてみる。コップに水が溜まるぐらいの水が出た。
では、最大ボリュームではどうか?
これは、家の中でやるのは危険だ。外ですることにした。
何故かと言うと、自分の最大のボリュームが解らないのだ。
大きな音を出そうと、つまみを回すけど、永遠につまみが回ると言った感じ。
外に出ると、50mプール位の大きな池がある。最近は雨の日が少なく、池の貯水量が減ってきているとみんなが嘆いていた。
これはチャンスと最大ボリュームで水魔法発動!やっぱり外でやって良かった!
池の半分ぐらいまで落ち込んでいた水かさが魔法の威力で、池の外まで溢れるぐらいになったのだ。
但し、副作用があった。最大の魔力を使うと言葉で言い表せないぐらいの虚脱感が起こり、3日位、寝込んでしまった。
魔力も復活し、再び池に来た。前回は自分自身の魔力のみで水を作り出したのだが、今回は外にある魔素と空気中にある水分を取り込めるか?と言う実験。
今回は、ボリュームは抑え気味。「最大」から「大」に変更。
魔法を発動する。狙い通りに大量の水が出た!
ただ誤算があるとすれば、最大ボリュームより威力がアップした事・・・。
今現在は池が水で溢れているのに、まだ水の注入が終わっていない・・・。
洪水になってしまった・・・。
僕のせいで領内は水浸し、これには父親も怒り心頭、僕を連れて各家に謝りに行く。
「この度は息子がご迷惑を・・・」と言いながら、僕の頭にげんこつが落ちてくる。
この家の謝罪が終われば、あっちの家。そこでも僕はげんこつをもらう。
これを全ての家の分やったので、頭が割れそうに痛かった。
「5才になった事だし、今日から剣の修行を付ける!」と父親はやる気。
当然、僕もやる気全開で父親に挑む。死にたくないからだ。だから全力で挑む。当然、簡単にいなされるのだが、どこが悪いのか、どうやれば上手く行くのか?剣の太刀筋は?と細かく聞くので。父親は嬉しそうに剣の稽古に付き合ってくれた。
筋力アップのトレーニングも忘れない。
何と言っても、父親を筆頭にウチの男子は全員、筋肉ムキムキなのだ。
いくら虚弱体質で育ったとはいえ、僕もムキムキ一家の男子。
必ず、ムキムキになれるはずなのだ!
僕は「死にたくない!死にたくない!」と言いながらトレーニングに励んだ。
僕の専らのトレーニング法、それは「村の手伝い」。
田植えは足腰のトレーニングになるし、収穫は腕のトレーニングにもなる。収穫物の運搬は筋力アップに繋がるし、いい所ばかりだ。
焼き畑をしたいと言う所では火魔法を使い、捨てる所がないという事には闇魔法で食らった。魔法のトレーニングにもなる。
ただ、魔導書の中で、どうしても解らない詠唱があった。
日本語に訳すと「器よ、広がれ。」《・・・》なのである。
対象物が何なのか解らないし、実際に器を目の前にして詠唱をしても何の変化もない。
解らないけど、いつか解るかも知れないと、毎日この詠唱を唱えている。
領地での僕の評判は絶好調!その声に家族も鼻が高い。
「よくやっているな!」と褒めてもらっても、自分の中では「役立たず」のトラウマがある為、「どうせ、僕なんかいらない子供なんですよね・・・・。」と膝を抱えてブツブツと呟く始末。
「あの子に厳しく教育をしたせいかしら?」と家族全員が首を傾げる。
「せっかくだから、友達と遊んで来たら?」と母親が遊ぶように促してくる。
・・・そう言えば、僕には友達がいなかった!
同い年位の子供はいるよ?でもみんな領地の子供じゃん!こっちが友好的でも、向こうが遜色ないでしょ?そうすると、気まずいでしょ?これって、僕は要らない子って事だよね!
「私たちはみんなで家族のように付き合ってるから大丈夫よ。ほら、行ってらっしゃい。」
母親が僕の背中を押す。門の向こうに同い年ぐらいの子供が5人程、迎えに来ていた。
「あ、あの~、こんにちは。」
コクコク・・・。皆は頷くだけ。
「僕の事は、ユキオって呼んで欲しい・・・。」
コクコク・・・。
「あの、ユキオって呼んで欲しい!」
「はい!ユキオ様!」
全員から出る言葉は『敬語』。
「あ、あの、困るんですよ。そういう特別扱いって・・・。」
「いえ!ユキオ様は領主様のご子息です!失礼は出来ません!」
僕の話を聞いてくれない・・・。
「じゃあ、今日から僕の事はユキオって呼び捨て、それと敬礼も敬語もなし。みんなの仲間に入れてくれ。これは命令です。」
すると、こわばっていた顔が溶け始めた。それから友達になるまで時間は必要なかった。
ある日、みんなで川遊びに行った。
川岸で石を拾い、「誰が一番向こうまで石を滑らせることが出来るか競争しよーぜ!」
みんなそれぞれ、目当ての石を拾い川に投げ込む。
「やったー!俺の勝ちだ!」自慢げに両手を上げる男の子に
「ずるーい!私も飛んだもん!」と喧嘩をしようとする女の子。
「じゃあ、もう一回、勝負な!」
「いいわよ!絶対に勝ってやるんだから!」
その上流の方にドっパーン!と何かが川に落ちた音がした!
「あ、あれって・・・。」女の子が指を指す。
その先には、一緒に遊びに来ていた男の子の姿があった!
どうやら、溺れているようで水の中をもがくように暴れている。
「俺、大人を呼んでくるよ!」と男の子が走って行った。
「私は、ロープを探してくる!」女の子も去って行った。
残るのは僕しかいないじゃん!
川は奥に行くほど深く、流れも早い。小さな体で飛び込むのは自殺行為だ。
どうにかする方法はないのか?と悩んでいると
役立たず・・・役立たず・・・と声が聞こえてきて、誰かが僕を指さしながら、役立たずと言っている。
「僕は役立たず・・・役立たず・・・止めてくれ!言わないでくれ!」
と、自分の心に鞭を打った。
「風魔法なら!」と魔法を発動するが、上手く行かない。
「ならば、氷結魔法なら!」氷は川に流されていく。
「助けてー!」男の子の悲痛の叫びが聞こえる。
後先考える余裕のなくなった僕は「これで、どうだ!」水魔法で川の流れを変え、男の子を川岸まで誘導した。
大人たちがやって来たのは、数分後だった。
「本当にありがとうございます!」頭を下げるのは川に溺れた子供の母親。
「ほら、あなたもお礼を言いなさい!」と男の子の頭を掴んで下に押し付ける仕草をする。
「それにしても、無事で良かった!」父親は笑顔を見せる。
「ええ、坊ちゃんがいなかったら、今頃はこの子はいなかったでしょう。」
「ありがとう・・・。」男の子は半泣き。小さな声で礼を言ってくる。
「これからも、一緒に遊んでくれよな!」と僕はわざとらしい笑顔で言うと
男の子の顔が明るくなり、「うん!」と答えた。