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小説「オチルマケル」削除ネタ0013
0013 新学期
リアが戻って来た!
僕達は当然のように大喜び!
「リア!また会えて嬉しいわ!これからずっと一緒ね!」
リリスが駆け寄り、リアの手を取る。
当然、僕達もリアを歓迎すべく集まった。
「また皆さんに会えて嬉しいですわ!これからもよろしくお願いしますわ!」
リアの顔も喜びでほころんでいる。
「それに・・・ユキ様にお会いしたかったですもの・・・。」
リアは赤らめた頬を両手で隠している。
その一瞬を、リリスは見逃さなかった。
リリスはリアを連れ、教室を出て行った。
「リア、貴女もしかして・・・ユキの事が好きなの?」
「私の父の命の恩人ですわ。私の全身全霊を掛けてご恩をお返しする所存ですわ。」
「だから、好きになったという事ね。」
「はい。」
リリスは顎に手をやり、少し考えた後、
「私はね、ユキと、その・・・キスをしたの。この意味を解ってもらえるかしら?」
「え⁉」
リアの驚きの顔にリリスは勝ち誇った様子なのだが、
「それならば、私もユキ様の唇を奪って見せますわ!」
リアは握りこぶしを胸に当て、リリスに宣戦布告をした。
「ふっ、貴女に本当にできるのかしら?」
「これからは、リリスと私は恋のライバルですわね。」
「フッフッフッ。」
「オッホッホッ!」
二人の視線がぶつかり、火花が走った。
この事を、ユキは知る由もないのである。
それはそうと、新任の副担任、シリカである。
その経緯は少し、遡る。
***
「旦那様、お話があります。」
シリカは、僕の父である、ルロン・ビー・ボルヌィーツの書斎にいた。
「学園でも私はユキ様のお傍に仕えたいのです。何とかならないのですか?」
ユキの通っている学校は、貴族学校ではない。
故に、従者を連れて行くのは校則違反である。
「そうは言っても、従者を連れて行くことは出来ないよ?」
「私は戦闘能力にも長けています。」
「何が言いたい?」
「私をユキ様の通う学校の教諭として働かせてもらえるように、口添えをお願いしたいのです。」
ルロンは目をパチクリしている。
その考えを思いつかなかったのである。
「そうか!その手があったか!」
・・・そういう経緯があって、父様は権力を使って、ねじ込んだのだった。
「私が教えるのは『体術』にゃ〜!厳しくするから、そのつもりでいて欲しいにゃ~!」
女中姿のシリカは満面の笑顔を見せると、教壇の端に移動して立っているが、視線は僕だけを見ているのだった。
「はい!今日から、新学期です!夏休みの間に勉強をしていたのか、今から実力テストを始めます!良いですね!」
担任の声が教室内に響くと、生徒の皆の顔が青ざめているのが分かった。
「あー!ダメだった!」
両腕を頭の後ろに組み、嘆いているのはクリスである。
「私も、ダメだった!」
「俺もだよ~!まさか、新学期の初日にテストがあるなんて、聞いてないよ!」
リリスとロンも肩を落し、俯き加減。
「俺は勉強してたから、余裕だぜ。」
マッシュは勝ち誇った顔をしている。
さすがに要領の良い奴である。
「ユキは俺達の仲間だよな!勉強なんてしてないよな!」
クリス達がユキに詰め寄る。
どうしよう・・・勉強していたなんて、言えない雰囲気だよ。
「僕も勉強してなかったから、そこそこだと思うよ。」
実は、全部の問題が解ったなんて、言えない・・・。
そんな会話をしながら廊下を歩いていると、立ちふさがる一人の生徒がいた。
トリュード・ミィ・ヘルモンドである。
以前に、決闘をして打ち負かした、お坊ちゃまだ。
「ユキ・ウィナー・カツ・ボルヌィーツ、決闘だ!我の申し出を断る訳にはいかないよな!」
面倒くさい・・・。本当に面倒くさい。
「嫌ですよ、実際、前回の決闘の時、君は反則したじゃないか!」
そう、この決闘において、危険だからと剣に魔力を込めるのは禁止されているのだ。
にも関わらず、この男は勝つために剣に魔力を込めたのだ。
それでも、僕の敵ではないので、軽く勝利したのだが・・・。
それ以来、僕への嫌がらせが一層、多くなり、取り巻き連中も嫌がらせをしてくる始末。
ああ、鬱陶しい、面倒くさい。
「我に怖気着いたのだな!では、負けを認めよ!我の靴を舐めれば、少しは機嫌も良くなるものよ。」
コイツ、どこまでも調子に乗りやがって・・・。
挑戦を受けるか?でもコテンパンに殴るのは大人げないし・・・。
「解りましたよ、また防具を付けてもよろしいですか?」
「いいや、今度はフェアに行こうじゃないか!」
ほぉ〜、僕を痛めつける算段だな?それに前回は防具のせいにしてたもんな。
「解りました、今からでいいですね。」
校庭で僕たちの決闘が始まる。
この学校では喧嘩はペナルティを受けるのだが、決闘には関与しない。
決闘が行われる間は授業は行わず、見物をしてよいのだ。
トリュードと僕は騎士らしく剣を顔の前に立て、この勝負は正当なものと示す態度をとる。
「「いざ、尋常に勝負!」」
トリュードは、前回と同じく、剣に魔法を乗せてきた!
プライドがないのか?それとも、馬鹿なのか?
そっちが、その気なら、こっちも魔力を乗せるしかないだろう。
僕は、皆に解らない程度の魔力を剣と全身に乗せた。
防御魔法である。
トリュードの剣が力任せに振り下ろされた!僕は剣を持って応戦するのだが・・・。
カキーン!
その音を響かせ、トリュードの剣は折れてしまった。
「それまで!勝者、ユキ・ウィナー・カツ・ボルヌィーツ!」
「くそ!この我が、魔力なしに負けるなんてありえん!お前、我の剣が折れやすいように細工をしたんだろう!そうに違いない!もう一度、勝負だ!」
「いい加減にしなさい、トリュード君、見苦しいですよ。それでも騎士ですか!」
教諭に叱られたトリュードを見て、ギャラリーの皆が、
「トリュードは実は、弱いんじゃないか?」
「いつも偉そうにしてるけど、無様ね。」
他の生徒達のヒソヒソ声が聞こえる。
「覚えてやがれ!今度の武闘会で目に物を見せてやるからな!」
そう言い残すと、トリュードは逃げるようにその場を去った。
ワーッ!と盛り上がっている歓声の中、パンパンと手を叩く教諭がいた。
「皆さん、授業を始めますよ!教室に戻りなさい!」
新学期早々の面倒くさい出来事だった。
相変わらず、退屈な授業である。
僕は窓の外を眺めていた。
僕の目に映るのは・・・。
別のクラスを指導しているシリカである。
見た所、六年生ぐらいだと思うのだけれど。
丈の長い女中服を着ているシリカに誰一人、勝てるどころか翻弄されているのだ。
「ほらほら、どうしたのかニャ?先生は息も上がってないニャ!」
シリカは余裕の表情で、生徒の攻撃を躱したかと思うと、あっさりと倒してしまった。
「みんな、校庭を50周程、走るニャ!それでは始め!」
「え〜!休ませてくださいよ!」
「全身が痛い・・・。」
「死ぬ・・・。」
生徒は満身創痍であるが、シリカは容赦ない。
「まだ、倒されたいかにゃ~!」
「いえ!走らせて貰います!」
シリカの授業、まだ受けてないけど、楽しめそうだ。
窓の外は初夏の空気、爽やかな風の中、悲愴に走る生徒を眺めるのだった。