小説「オチルマケル」削除ネタ0004
こんにちは!
私が良く書くのは「異世界ファンタジー」ですが
定義ってあるのでしょうかね?
悩んでいるところです・・・。
***ここから本文***
0004 魔力の蓋
「ユキ、5歳の誕生日おめでとう!」
今日は僕が5歳になった誕生日である。
僕が5歳になるまで何もしてこなかったのか?
答えはNO!である。
せっかく、神様より剣と魔法の才能の種を頂いたのだから、発芽させるための努力は怠らない。
まずは赤子の時より筋トレ?は欠かさず行ってきた。
赤子の身体は小さく、その割に頭が大きいのでまずは首の筋肉を鍛えることにした。
仰向けに寝ている時は首と腹筋、うつぶせの時は腕立てと背筋を、物につかまり立ちが出来れば足の筋力増強のためのスクワットをしていた。
ま、はたから見れば赤子がじたばたしているようにしか見えなかったと思うけど、これでもトレーニングはトレーニングなのだ。
一人で立てるようになったら、今度は剣を振るうトレーニング。
とはいえ、重い剣を振るう事は出来ないので、軽い枝を剣に見立て素振りをする。
型などは父が庭で剣の訓練をしているのを参考にしていた。
ただ、前世の名前の”呪い”のせいか虚弱体質である。
10分トレーニングをすると30分は休まないと身体が思うままに動かない。
無理をすると熱を出して寝込むほどだ。
その度に父が神殿まで連れて行き、治癒魔法を施してもらっている。
「兄様、お誕生日おめでとう!」
僕のすぐ隣で祝福しているのは4歳の妹、エレン・トワーレ・ボルヌィーツである。
そう、僕が生まれてすぐの両親による熱い夜のお勤めの成果、妹が出来たのだ。
妹も僕と同じく銀髪でかなり可愛い。将来は美少女になるのは決定しているのも同然である。
これで、神様に出したリクエストが叶った訳だ。
しかし、一つだけリクエストと違う所があった。
それは『顔』である。
イケメンとリクエストをしたのにも関わらず、僕の顔は美少女顔負けの『美少年』なのだ。
だから、トレーニングの他の時間は母親や姉、女中などから色々な女の子の衣装を着せられ、可愛く仕上げた僕を愛でるといった事が日常茶判事になっていた。
僕は『男の娘』扱いをされている訳だ。
まあ、それはそれとして、せっかく神様より才能の種子を頂いたのだ。後は僕の努力次第、種子を発芽させるための努力だけである。
とはいえ、今日は誕生日のお祝い。たまには幸せに浸るのも良いだろう。
因みに、前世の記憶を引き継いでいるため、現在精神年齢は19歳である。
「ユキ、お前にプレゼントだ!」
父が用意してくれたのは剣である。大人用の。
実はこの世界では男子の5歳の誕生日には剣を送る風習があるようで、男子たるもの王国の剣であれ!との意味合いと、健康に育って欲しいとの願いも含まれているらしい。
日本で言えば、一番近いのは5月人形のような物か?
実際に貰った剣は実用性はなく、あくまで観賞用。
なので、実際の剣よりも軽く出来ている。
本物の剣ははるかに重いのだそうだ。
「この剣を振ってみてもいい?」
僕がそうおねだりをすると、父は微笑みながら剣を抜き、僕に渡してくれた。
いくら軽く作られている、僕も筋トレを欠かしていないと云えども、5歳の僕には、やはり重い。
渾身の力を込めて、えい!と振ってみた瞬間に、僕は暗闇に飲まれてしまった。
所謂、倒れてしまったのである。
驚いた父は、すぐに僕を馬車に乗せ、神殿へと向かうのだが、夜遅くの時間に神殿が開いているのかどうか、博打に近い行動であった。
父は閉まっている神殿の扉を何度も叩いた。何度も何度も。
「はい。どちら様?」
幸いにも神殿長がいたので、父は慌てて僕を担ぎ込んだ。
神殿長もその様子を見て慌てて治癒魔法を施すのだが、僕の意識が戻ることもなく、逆に高熱を出すようになって行った。
「実は領主様に告げなければならない事があります。
ご子息は、倒れるたびに呪いの力が濃くなってきています。もし、このままの状態が続くのであれば、覚悟をされた方が良いかも知れません。」
そう言いながら、神殿長は聖水の入ったコップを持ち、少しずつ僕の口へと流し込む。
「飲みなさい。」
僕は意識が朦朧としながらも、一口だけ聖水を飲んだ。
その結果、少しだけ回復の兆しが見られたので、間髪入れずに治癒魔法を重ね掛けしてくれた。
そのお陰か、意識だけは戻ったのだが、身体に力が入らず、僕は父に抱きかかえられながら帰路に着いたのだった。
家に着いた僕はすぐにベッドへと運ばれて行く。
その様子を家族が心配そうに見守っていた。
「ねえ、あなた。ユキの身体はどうなっているの?」
母は心配と不安を隠せないまま父に訪ねた。
「呪いが酷くなっているらしい。覚悟をしろと神殿長に言われた。」
「そんな・・・。」
母は力が抜けたように座り込み、泣き崩れ、その母を家族全員が抱きしめながら、同じように泣いていた。
僕の5歳の誕生日は、悲しみで終わった。
そんな日の一週間後。
屋敷の扉を叩く音がした。
女中が扉を開けると黒いローブを目深に被った老婆が立っていて、雨宿りを させてくれないかと言っていた。
外は雲一つない快晴である。
余りにも怪しい老婆に女中が断りを入れると、老婆はそんなことを言っていると罰が当たるよと言い、ついには押し問答になっているところに父がやって来た。
「おばあさん、何のご用向きですか?」
「私はヤヲと言う。雨宿りをさせて貰いたい。贅沢を言うならば、食事もお願いしたい。」
「ですが、外はいい天気ですよ?」
そう言っていると、雨粒が落ち、やがて大雨になった。
老婆の予想的中に父は申し訳ないと屋敷に出迎え、食事を振る舞った。
老婆は、お礼に何かできないかと申し出て来たので、実は息子が大変な状態だと告げ、すみません、泣き言を言いました。忘れてくださいと言いかけの言葉を遮り、
「こう見えて、私は魔導士でね、坊ちゃんを診させてくれないかね?役に立つかも知れないよ。」
老婆は父にそう告げた。
父の案内の下、僕の部屋に着くや否や、老婆は全てを見通したかのように、
「この子は呪いが掛かっていると言われなかったかい?」
「良く解りますね。その通りです。」
「私なら、治してやることが出来る。今まで以上の健康体になれるだろう。」
そう言いながら筆を取り出し、僕のお腹に魔法陣を描き、何やら呪文を唱えていた。
僕の身体の中が熱くなったかと思うと、引き裂かれるような痛みを感じ取り悲鳴をあげると、
「ほら、坊ちゃんの身体を押さえなさい!もうすぐ、終わるから!」
聞き覚えのない声が頭に響いた。
引き裂かれる痛みは更に大きくなり、僕は気を失ってしまったのだが、その痛み故に、また目を覚まし、悲鳴を上げる繰り返しだった。
時間にして、5分程度らしかったのだが、僕にすれば何時間も痛みを味わったような感覚だった。
「終わったよ。ぐっすりと休みな。」
また、さっきの声を聞き、僕は眠りについた。
翌朝。
身体がスッキリとしている。それどころか、力がみなぎっているようだ。
嬉しさの余りに部屋を出て、リビングに行くと、家族の他に知らない老婆がいる。
誰?
「おお、ユキよ。もう、良いのかい?」
父は涙を流しながら僕を抱きしめてくる。
そこに母が、兄が、姉が、妹がと寄って最終的に僕を中心に家族全員が抱き合っている状態。執事や女中もハンカチを目に当てていた。
「ええ、すっかり元気です!父上!」
「そうか!良かった!では、皆で食事にしよう!」
家族+老婆の一家だんらんの朝食になった。
「このおばあさんが、ユキの病気を治してくれたんだよ!お礼を言いなさい。」
「おばあさん、ありがとうございます!」
「いいんだよ、一宿一飯の恩と言う奴さ。気にしないでおくれ。」
「ところでミラ様。ユキに掛けられていた呪いとはなんだったのでしょうか?」
「それは、後で本人に言うよ。」
食事の後、老婆が僕の部屋にやって来た。
老婆の口から出た言葉は、
「君は前世の呪いを引きずっていた。違うかい?」
僕は、その指摘にびっくりしてしまったのを老婆は見逃すはずもなく
「やっぱりね。君は前世の記憶を持っている。違うかい?」
こうなってしまったら、ごまかしようがない。
僕は前世から80回転生をした事を包み隠さずに老婆に話した。
その間は、老婆は何も言わず、ただ、黙って僕の話を聞いていた。
「実際の所、坊やの呪いはずっと前にほとんど解けているんだよ。問題は君の中にある魔力さ。
今まで体調が悪かったのは、元々備わっていなかった身体に強引に植え付けた魔力の種子が芽吹いていたのだけれど、ちょうど瓶に蓋を付けたようになっていて、上手く魔力が放出されなかった事にあるんだよ。
昨日、私がやった事はその蓋を開けたのと同じことだね。
これからは、健康体でいられる、いや、もっと頑丈な身体になるだろう。それだけの魔力が君にはあるんだ。」
どういうこと?魔力が上手く放出出来ていなかったというのは?
疑問が疑問を呼んだ。
老婆曰く、
この世界の生物は全て魔力を持っていて、それが生きる糧となっている。
所謂、生命力といった所か。
しかし、この事は余り知られていない。賢者や魔法研究をしている者位しか知られていない知識なのだそうだ。
更に、生命力には個人差があって、それが人間の体力に繋がっている。なので、蓋をされた状態の僕は虚弱体質だった訳だ。
「坊や、魔法を習うつもりはないかい?私が教えてあげよう。」
老婆は目深に被ったローブを脱ぐと、そこには長い耳があった。
「もしかして、エルフ?」
「ほう、博識だね。さすがは異世界人だね。」
それからは、一日中僕は老婆にくっついていた。
勿論、筋トレと剣を振る訓練はしている。
僕は老婆の膝の上に座り、本を読んでもらうと同時に読み書きを教えて貰っている。
教科書は老婆が持っている『魔導書』。
これを勉強することによって、魔法の基礎を学ぶという訳だ。
だが・・・。
「あら、この本ってどこの言葉なのかしら?」
母が不思議そうに言っていた。そう、この魔導書はエルフの言語だったのだ。
慌てて、この世界の文字の読み書きも勉強したのは、言うまでもない。
ある日。
いつものようにおばあさんの膝の上で勉強をしていると、基礎中の基礎を確認してみたくなった。
本で理屈は分かって来たのだが、イマイチ実感が沸かない。
「ねえ、おばあさん。魔力を意識するって、どういう事?」
すると、おばあさんはコップに入った水を飲むように言って来たので、飲んでみることにした。
「水が口から食道を通って、身体の中に入って行くのを感じ取れたかい?
この水が魔力って事さ。その魔力は君の中にある。その流れを感じ取るんだよ。」
「魔力はどこにあるの?」
「それはここさ。」
僕のお腹を摩った。
その瞬間に、熱い物を感じ取り、その熱が体中をめぐるのが分かった。
「後は、その魔力をどんな形で外に出すか?これからは、それを勉強して行こうじゃないか。」
老婆は、目を細めながら僕の頭を撫でていた。