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小説「オチルマケル」削除ネタ0005

0005 魔法適性検査

 老婆が屋敷にやって来て2年が経っていた。
 僕は7歳になった。

 この世界で7歳は学校に行って勉学を始める年齢である。
 そして、15歳の成人の儀を終えてから、仕事に就くか、はたまた王都にある大学に進むかを選択することになる。

 僕は、この世界の言語とエルフの言語の2か国語?の読み書きが出来るようになっていた。
 剣術は毎日のように父に教わっているので、まだ少し重い剣もそれなりに振れるようになっていた。

 そしていよいよ明日から街の学校に通うことになった日。
 突然、老婆がこの屋敷から去ると言って来た。

「もっと、いてくださっても良かったのに。」
 母が何とか居てもらおうと説得を試みるも老婆の決心は硬いみたいで
「散々、お世話になったからね。そろそろいい頃合いだよ。それに、邪魔も入るしね。」
「そうですか・・・本当にありがとうございました。」
「それから、ボンが15才になったら、王都にある王立魔法学園に行かせるように。
 ボンの才能ならば、魔法騎士になれるだろう。
 ボン、しっかりと勉強するんだよ。それじゃ。」
 ローブを目深に被り老婆は行ってしまった。

 旅立った老婆と入れ替わるように騎士風の男が馬に乗ってやって来た。
「今、黒いローブを着た老婆がいなかったか?」
「ええ、今、旅立たれましたが。」
「くそ!遅かったか!」
「あの、あの方って、一体・・・?」
「あのお方は、王国一の賢者様です!自由気ままな所が玉に傷ですが・・・。では!」

 あの老婆は賢者だったのか。
 だから魔法にも詳しく歴史にも詳しかった訳だ。

 僕はこれから魔法に関しては老婆が残してくれた魔導書数冊を読み込み、自分の物にすることを誓った。

 翌日。
 今日から、街にある学校にて勉学に励む事になる。
 僕の他に4名が同級生となる。
 この子達は僕が名前を授かった日に一緒にいた子供達で、近所に住んでいる。
 たまに、一緒に遊ぶことはあるが、元来の虚弱体質のイメージからか、いつも一緒と言う訳ではなかった。

 だが、今日から6年間、同じ机に向かうクラスメイトになる。

 名前は、
 クリス・スチュワート。農家の長男でかなりの力自慢。ガキ大将タイプだ。
 ロン・カッド。この子も農家の次男坊。クリスをライバル視していて、いつも喧嘩をしている。
 リリス・デグレチャフ。紅一点なのだが、男子顔負けの身体能力を誇っている。
 マッシュ・エドモンド。この子は商人の三男坊。真面目と言うよりも要領がいい。

 この4人が僕の学友になる。
 更に全員、魔力保有量が高いのだとか。皆が皆、将来は魔法騎士を目指しているらしい。

 入学式。実際に学校に通うのは僕達だけではなく、他の領地からやって来る者や、王都からやって来る者もいる。
 それでも全員で100名ぐらいだ。

 何故、他の領地からやってくるのか?
 その理由の一つに魔術科があることが大きい。
 実際に、この学校の教育水準が高いのもあるが、将来魔法を身に付け、更には魔法騎士を目指すならば英才教育にと、この学校を選ぶ人が多いのだ。

 では、魔法騎士とは?
 魔法と騎士。相容れぬように感じるかも知れないが、王都騎士団の花形であり、出世コースでもあるからだ。
 身分が低い者でも魔法騎士になって活躍すれば貴族にだってなれるのだ。
 実際にユキオの父親、ルロン・ビー・ボルヌィーツも平民の出自ながら魔法騎士になり、功績をあげることによって貴族の地位を手に入れた人物である。

 実力で幸せを手に入れることができるのだ。
 ただ、王族や元々の帰属に関しては世襲制を持ち入れられている。
 と、言うのも、王族や貴族にしか受け継がれることのできない能力があるからだ。
 その力とは『治癒魔法・回復魔法』である。
 この力はランダムに王族・貴族の血縁者に受け継がれるので、戦いの最前線に赴くことが多く故に命を落とす危険度が高い。なので、この世界では一夫多妻制度が用いられている。
 そして、無事現役を退いた後は神殿にて働くことが多いのだ。

 その王族の中でも最も珍しいのが『聖魔法』である。
 この聖魔法は治癒・回復魔法の力もあり、更には肉体・精神にも影響を及ぼす事が出来る魔法らしい。
 庶民であっても聖魔法の能力を持っただけで王族になれるぐらいのレアな魔法らしい。

 さてさて、学校の話に戻る。
 学校では読み書き計算の他に世界史や軍事に関しても学ぶことが出来る。
 更に、多数の学科の他に剣と魔法の学科もある。これは必須ではないが、生徒の80%はこの科目を選んでいる。

 入学式の後、新入生は魔力適合検査を受けることになる。
 これはどの属性かを調べることにより、より高い人材を排出することが出来るからだ。
 結果は、クリスが火属性、ロンは水と風、リリスは土、マッシュは光となった。

 そして、いよいよユキの順番が回って来た。
 魔力適合検査は測定する水晶玉に手を置くだけなのだが、属性と同時に魔力量も計ることが出来る。

 ユキオは緊張していた。
 確かに魔力を押さえこんでいた蓋は老婆によって外された。
 なのだが、普通は幼いころから簡単な魔法を使えるらしいのだが、ユキオに限っては魔法を使ったことがない。
 ひたすら、座学のみ頑張っていた訳ではあるのだが・・・。

 何の属性もなかったらどうしよう・・・。
 そう思いながら水晶玉に手を乗せる。
 が、水晶玉はなんの反応する事もしなかった・・・。
 え?僕の魔力の蓋は開いたよ?なのに何故、反応がなかったのだろう。

 ユキオはおかしいと試験管に連れられ別室に移動、そこで更なる確認をされた。

 まずは火魔法から。
「この標的に火魔法を打ち込んで下さい。」
「分かりました。#&%‘@$・・・。」
「ちょっと待ってください。なんですか、その呪文は?」
「教えてもらった呪文ですが・・・。」
「分かりました。続けて。」
「#&%‘@$・・・。」
 次の瞬間、暴発にも似た極大の火球は標的を打ち破り、後ろにある壁をも黒焦げにしてしまった。

「燃えています!次は水魔法で消してください!」
 #&%‘@$・・・。
 大量の水が放出され、床上浸水状態になってしまった。

「次は風!」
「次は土!」
「次は・・・。」

 全属性の適正あり。水晶玉が反応しなかったのは、許容範囲を越えていたから。
 どの科目に進むかはユキオの自由にしてよいとの事で決着が着いた。

 けれども、教官は気づかなかった。
 ユキオには「治癒・回復・聖魔法」の適性もあることを・・・。
 更には、神話級と言われている「神聖魔法」を取得している事を・・・。

 特別室から出てきたユキオに同郷4名が駆け寄ってきた。
「どうだったの?」
「適正がなかったのか?」
 ユキオはどう答えるか迷ったが、魔力が少ないから良く解らなかった。とりあえずは全属性の勉強をするよと答えを濁すことにした。

 ただ、ユキオの内心は全く違う事を考えていて、
(オイオイオイオイ!めっちゃ、チートやん!こんなのどうやって説明すんの?このままではヤバい!バレたら即座に最前線行き確定やん!そうなれば死ぬ確率もめっちゃ高くなるし、死にたくない!この能力は隠そ!それしかない!)
と、変な関西弁になってしまうほど、動揺していた。

 学校の教官室にて。

「えらい人材が生徒の中にいる。」
「ああ、既に我々を越えている。」
「どう扱えば良いのやら・・・。」

 教官たちはユキオの能力に驚きを隠せず、公表するか隠ぺいするかで話が二分した。
 公表すれば飛び級で王立魔法学園に入学→魔法騎士確定なのだが、ユキオは7歳の幼き少年である。
 この若さでの有能さは必ず嫉妬の的になり、追い込まれ、やがて嫉妬からの暗殺対象へと繋がるだろう。
 結局、ユキオの能力に関しては隠ぺいをすることにし、魔法の実施訓練科目から外すことに決定をした。

 その日の夕方。
 ユキオは悩んでいた。
 魔法適性の結果を皆に知られると悪目立ちが過ぎる。
 学校から帰り、自宅で寛いでいるフリをしていると、一通の手紙が届いた。
 差し出し人は老婆からだった。

 内容は、
「学校では決して魔法を使う事の無いように。」
 の一行だけだった。

「なんて書いてあったの?」
「おばあちゃんが、勉強を頑張るようにだって。」
「そう、親切ね。」

 ユキオは魔法の実施訓練は参加せずに剣の実施訓練のみ受けることを決心した。


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