Column-8 Remastering
リマスターの凄さが世界的に認識されたのは、2009年9月のBeatlesの全アルバムのリマスターだろう。何と4年の歳月をかけてデジタルリマスターを完成させたというのだ。すべてのアルバムをリマスター版で聴き直ししなければならない。EPもLPもCDも持っているというのに、リマスター版CDを買うことなった。昭和40年代のステレオで聴いた音の記憶が鮮明だから、出てきた音には驚いたし、ポールのベースとリンゴのドラムの凄さが浮かび上がっていた。
ところがさらに2009年12月に出たUSBメモリー版も買うことになる。USB版は24bitなのだ。もちろんCDの音をなるべく良い音で聴くためにDACは使っていたので、MacBookをDACに繋げて、USBメモリーを挿して初めて24bitの音を聴いた。すぐにボーカルの声の生々しさに感動した。楽器の音も、本当にビビットだ。Beatlesの音は、小学生の時から聴き込んできた音、違いはあまりにも明白だった。
さて、リマスターについて、僕の知るところを少し書いてみよう。レコード会社の倉庫には、アナログ時代の膨大なマスターテープが眠っていることが多い。リマスターしたいテープを見つけて、ただデジタル化すれば良いという訳ではない。ここからが大変だ。
磁気テープはリールに巻かれているものなので、磁気で記録されているテープ同士が、サンドイッチのようにずっと重なっていることになる。長期間保存すると磁気がお互いに影響して僅かだが重なっているところに磁気記録をコピーしてしまうのだ。これは再生すれば聴こえるレベルだ。さらにアナログテープには、ヒスノイズという高音域のノイズがもともと乗っている。これも耳を澄ませば聴こえるレベルだ。
ノイズなど余計な信号を取り去る方法はいろいろあるが、現在では32bit/192KHzなどのハイビットかつハイサンプリングでマスターテープ音源をデジタル化した後に、ノイズ取りを行うことが多いはずだ。ここで単純にノイズを取れば良いというわけじゃないところが難しい。ノイズの中に聴感的な音質にとって重要な信号が埋もれているからだ。ディスプレーに波形を拡大表示して、データを直接編集することもあるだろう。オリジナルの音源がリファレンスだけれど、ハイレゾ時代ということや、現実ヘッドホンやイヤホンで聴かれることも考慮して、音の輪郭をクッキリさせることは多いようだ。
音源が、音楽史にとっても音楽産業にとっても重要なものには、手間暇かけてリマスターする価値がある。一流のエンジニアが作業にあたり、一流のミキサーとプロデューサーが、彼らの耳で最終の音決めをする。残念ながら、右から左へとリマスターされしまう音源もある。だからリマスターのハイレゾ音源なら、すべて良いというわけでもない。
しかし、それでも24bit化の恩恵は素晴らしい。どんなオーディオシステムでもボーカルの音質の違いをすぐに感じるはずだ。70年前のトランジスタラジオでも、素晴らしい音楽体験はできた。しかしハイレゾ音源は、ミュージシャンたちの凄さを深く伝えてくれる。大好きだったレコードアルバムのハイレゾ・リマスターは、是非聴きたいものだ。そこには、新たな感動と発見があるからだ。
リマスターをして、さらにリミックスされる音源については、次の機会に書くことにしたい。