秘伝「どうでも良い被写体」戦法
ストリートスナップをしていると、魅力的な人物に出会い、写真を撮りたくなることがよくあります。普段は、声をかけたり、アイコンタクトや軽く手を挙げて相手の了解を得て撮影しています。しかし、時には断られることもあり、この方法は少々ストレスを感じることもあります。当然ですね。相手は私に興味が無いのですから。そこで編み出したのが、「どうでも良い被写体」戦法です。
撮りたい人がいる場合、あえてその近くの「どうでも良い被写体」を、まるで芸術作品を撮るかのように真剣に撮影します。たとえば、撮りたい人の背後にある壁を指して、「すみません、この壁を撮りたいので、少し避けていただけますか?」とお願いし、壁を一生懸命撮ります。すると、その人は「一体、なんでこんな壁をそんなに熱心に撮っているんだろう?」と不思議に思い、次第にこちらに興味を抱くようになります。
やがて、だいたいのアメリカ人は我慢できず「なぜこの壁を撮っているんですか?」と質問することが多いのです。ここがチャンス。「この街の風景を切り取っているんです」や、「この壁が私にはとても芸術的に見えるんです」といった答えで、自然に自分がフォトグラファーであることを伝えます。その流れで、「せっかくの出会いですので、写真を撮らせていただけますか?」と切り出すと、ほとんどの場合、快く了承してもらえます。相手が先にこちらに興味を持った状態なので、断られることはまずありません。
この日はメトロの駅に向かうと、自転車を持った若い男の子が二人いました。そこで早速、秘伝の「どうでも良い被写体」戦法を発動。彼らの近くにある改札口や自動券売機を、意味ありげに写真を撮り始めて注意を引きます。すると案の定、すぐに声をかけてきました。こちらから話を切り出すまでもなく、「もし無料なら僕らを撮ってくれない?」と依頼されました。さすが若い世代、話が早いですね。私はすぐに「もちろん、タダで撮らせていただきますよ」と笑顔で応じ、カメラを向けました。
しかし、ここから予想外の展開が待っていました。彼らは、「駅の外で自転車のトリックを撮ってほしい」と熱いリクエストをしてきたのです。この申し出には少し戸惑いました。というのも、持参していたカメラはCANON EOS R6のような動体撮影に強いモデルではなく、LEICA M10-PとLEICA MP 0.72です。動く被写体をあまり得意としません。
しかし、自称フォトグラファーとして、ここで尻込みするわけにはいきません。私は涼しい顔で「もちろん!」と快諾しましたが、頭の中では撮影プランをぐるぐると練り始めました。瞬時に導き出した結論は以下の通りです。
まず、使用するレンズは35mmのスチールリム。50mmも持っていましたが、広めの画角の方が被写体を外すリスクを軽減できます。そして、撮影後にすぐ結果を見せられるよう、フィルムではなくデジタルのLEICA M10-Pを選択しました。設定は、ISOをオートにし、絞りはF8以上。シャッタースピードは1/250に設定し、置きピンで対応する作戦です。これなら、動きのある被写体にもなんとか対応できるはずです。そして、味付けとして折角のスチールリムの特性を活かして、逆光で撮影してフレアをアクセントとしてみました。準備は整いました。いよいよ撮影開始です!
地面に寝そべって、出来るだけ迫力あるアングルをトライしました。フレアもいい感じです。
というわけで、「とっても素敵な被写体」のハイスクール男子お二人に感謝です。
カメラ:LEICA M10-P
レンズ:Summilux-M 35/f1.4 Steel Rim -reissue-
出力:Adobe Lightroom Classic