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『Edgewood』 写真集プロジェクト - 1

3年半間通い続けたEdgewood AVEの集大成としてプライベート写真集を制作するプロジェクトを進めています。


写真集が目指したい価値

ジョージア州アトランタのEdgewood AVEは、南北戦争や公民権運動の歴史を持つ黒人コミュニティにとって重要な場所です。私はこの通りに3年半通い、ストリートスナップを撮り続けてきました。日本人の知人にその話をすると、驚かれ、日本人にとってこの場所がいかに馴染みのない場所であるかを改めて感じました。しかし、私はこの通りで出会った人々との交流を通じて、Edgewood AVEの特別な魅力を確信しています。特に、そこに暮らす人々の表情に強く心を惹かれました。

おそらく、この地域もいずれ再開発が進み、街並みは大きく変わるでしょう。それ自体は良いことですが、現在ここで生活している人々や街並みを記録することには大きな意味があると感じています。過去のブラックコミュニティの歴史と、これからの歴史をつなげる価値のある写真集になると考えました。また、日本人という外部の視点でこの場所を切り取ることで、より客観的に描写できるのではないかと思っています。

ただし、この写真集には政治的なメッセージや社会的な主張は一切込めていませんし、私自身、そのような思想は持ち合わせていません。あくまでフォトウォークを通じて、純粋に魅力的だと感じた被写体を描写しただけです。その結果、写真を鑑賞する人がそれぞれの感情で自由に受け止められる余白を残せたのではないかと思っています。

カラーコピーで出力して、全体を俯瞰して確認。

ライカだけで撮った写真集

この写真集は、デジタルカメラのLEICA M10-Pで撮影したカラー写真56枚と、フィルムカメラのLEICA MP 0.72で撮影したモノクローム写真27枚、合計73枚で構成されています。つまり、すべてライカで撮影した写真集です。デジタルとフィルムを混ぜた理由は、私が普段からフィルムカメラとデジタルカメラの2台体制でフォトウォークを楽しんでいるからですが、それを無秩序に混ぜてしまうと写真集としての統一感が失われるため、あえてカラーはデジタル、モノクロはフィルムと、役割を明確に分けました。

Adobe InDesignで作成し、表紙抜きでページ数は93ページです。エディトリアルデザインも自分でやらなければならなかったので、全体を把握するためカラーコピーで出力してバランスを確認する作業を何回も行いました。また、プリントデータにするためのRGBからCMYK変換時に、全体のトーン&マナーを揃える作業も行いました。4年と、長期のプロジェクトなので、デジタル現像において初期の頃と今では味付けが異なるため、トンマナは揃える作業が必要になったのです。

何度も修正することで、理想に近づけていく。

写真集のステートメントやキャプションは、Edgewood AVEの友人たちにも配るため、英文も併記してあります。英訳はChat GPTで行い、その後、ネイティブスピーカー数名の協力を得て、チェックをしてもらいました。

紙質

写真集には、あえて上質な紙ではなく、ザラついた薄めのマット紙を使用しようと考えています。これは、土門拳の写真集『筑豊のこどもたち』を参考にしているためです。この写真集では新聞更紙(ザラ紙)が使われており、それが炭鉱の厳しい現実を強く印象付ける役割を果たしています。この質感によって、ドキュメンタリーとして心に突き刺さってくるのです。これこそが、1863年の奴隷解放宣言以降も南部を中心に、黒人に対する差別が続いた歴史を象徴するEdgewood AVEを写真集として表現するには相応しいと考えました。

黄ばんだ『筑豊のこどもたち』とYETIのカタログ。

この質感に似た印象を受けたのは、アウトドアブランドYETIのカタログです。素敵なカラー写真が多用されているものの、薄い紙のために裏側の印刷が少し透けて見えることがあります。通常、印刷の質感こそが命の写真集としては失格かもしれませんが、Edgewood AVEが持つ歴史観や現在の雰囲気を表現するには、むしろこの方が都合が良いのです。上質で綺麗な紙質や印刷は、このプロジェクトには合いません。また、紙が時間とともにエイジングし、黄ばんでくるとさらに雰囲気が出るでしょう。土門拳の『筑豊のこどもたち』も1960年発行で、すでに65年以上経ち、かなり黄ばみが進んでいます。この写真集も、年月を経てそのようなエイジングにより、Edgewood AVEの歴史が可視化されることを期待したいです。最も、あと65年生きることは不可能ですが、、

エディトリアルデザイン

エディトリアルデザインにいおても、『筑豊のこどもたち』をデザインした亀倉雄策先生を参考に、とてもシンプルなレイアウトで構成しました。亀倉雄策先生は、戦後を代表するデザイナーで、東京オリンピック(1964年)の公式ポスターや、NIKON Fのデザインなどを手掛けました。有名な東京オリンピックのポスターの如く、気をたらったデザインではなく、写真の見やすさを重視ししたレイアウトを心掛けました。

タイトルロゴ

タイトルロゴは、Obvia Expandedをベースに、Edgewood AVEの道路標識のフォントのテイストを少し取り入れて調整しました。このフォントはシンプルながらも、タイトルロゴとしてしっかりとした存在感があり、少しアレンジを加えることで適度な個性も表現できます。これも、白人社会の中でたくましく生き抜いてきた黒人たちのスタンスを象徴する工夫のひとつとなっています。

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