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【万年筆】認知の歪みについて

ほぼ独り言のような内容だが、自戒を込めて書き留めておく。

少し前の話だが、私は友人と他愛もないやり取りをしていた。
彼とは10年来の付き合いだが、遠く離れた場所に住んでいるため顔を合わせる機会がない。しかし不思議なことに、何も連絡せずとも趣味がピッタリ合う瞬間が、数年に1回起こる。そのため、付かず離れずのやり取りが続いているという稀有な関係だ。現在は投資で意気投合している。

ある時、私は「パイロットの株が欲しい!優待があるから!」と言った。
パイロット社は、100株所有すると実用筆記具セット、500株で中価格帯筆記具、1000株で万年筆を送ってくれる。いずれも特別仕様なので、私のようなパイロッ党にはたまらない。しかし、パイロット株はすんごく高いため(1株4800円程度)、手を出せないでいる。1000株だと480万円だから、無理ってものである。

すると友人は、「パイロットは長期で見ると結構上下があって怖いね」と言う。
株主目線で鋭い。確かに、株価がめちゃくちゃ上下しているのだ。今はやや調子が良いが、2024年の年始までグッと上げ、それから半年ほど低空飛行をしている。愛がなければ怖くて持っていられないかもしれない。

株主になるタイミングは要注意だが、パイロットが潰れるとは到底考えにくい。私は「人間が書くのをやめるまで大丈夫」だと思っている。だから、黙って株を握っていればおのずと上がっていくだろう。
そこで私は、

「高値掴みしても大丈夫!フリクションとか売れてるから!w」

と返した。そう、パイロットは万年筆だけでない。シャープペンやボールペンが爆売れしているのだ。しかし、そう言った後に株価が大下落したので、買っていたら多分大丈夫ではなかった(メンタルが)。お金持ってなくてよかった。

それを聞いた友人は、「あ、そのことか」と腹落ちしたように、こう返した。

「あ、フリクション作ってるところなんだ笑 大手だった」

え。

フリクション作ってる企業、知らなかったのか!?

私は衝撃を受けた。
なんてことだ。フリクションなんて、日本人なら誰もが知る革命的なペンだ。でも、それを製造している会社にまで関心はないというのか。いちいち気にしていない、というのが正しいか。筆記具界隈にいるため、逆にそんなことを考えたこともなかった。

まあ、分からなくもないのだ。

まず、筆記具メーカーと製品が多すぎだ。
切磋琢磨していて健全なのだが、私だって「フリクション、サラサ、エナージェル、ジェットストリーム作ってるところ言ってみ?」と聞かれたら、答えられはするがスラスラいけるかといえば微妙だ(正解はパイロット、ゼブラ、ぺんてる、三菱鉛筆)。ついでにピュアモルトとレグノはどこのメーカー?と聞かれたら終わる。

また、最近は筆記離れも進んでいる。一般のユーザーの感覚では文房具のメーカーへのこだわりだったり、知識だったりは醸成していかない。どちらかといえばフリクション推し、ジェットストリーム推しなど、その商品だけ推している状況が多い。

私はなるほどなぁ、と思った。
それは主に執筆においてのことだ。みんなそこまでメーカーに興味ないので、「分かってますよね?」という書き進め方をしてはならないということだ。マニア向けならともかく、広く見てもらうにはある程度の補足が必要だと思う。

ところが、万年筆界隈ではそうはいかない。筆記具の中でもさらに狭い世界なので、勘違いが起きやすい。また、メーカーひとつとっても書き味やデザインがかなり異なるので、こだわりや愛着も人一倍大きく、主語が広がりがちだ。

よく万年筆関連のブログや記事を読むのだが、「ん?」と思うことがある。記事において稀に、

「万年筆を持っていない人でも、モンブランの名前は聞いたことがあるだろう」
「ペリカンなら誰でも知っている」

といった文言が飛び出してくるのだ。こうした記述に、私はぎょっとするのである。

いいえ、知りません。
パイロットですら怪しいのに、一般人がペリカンやモンブランを知ってるわけないでしょうが!文具に興味がある方でも、万年筆はラミーがギリだと思う。もしペリカンやモンブランを知ってたらそれは「万年筆を知らない人」ではない。

これらは界隈に染まってしまい、有名ブランドなら誰でも知っているかのように錯覚してしまっている例だ。「いや知らんでしょ」と思われたが最期、文章の説得力を失ってしまう。

繰り返しになるが、万年筆マニアに向けて書くのであれば、説明はいらないだろう。しかし、それでも「誰でも」というほどではない。私は少し慎重になって、「万年筆マニアなら誰もが知る」とか、「〇〇という商品でも有名な」といった文を付け加えるようにしている。

そして、そもそも多くの人は「書く喜び」などというものを感じ得ていないだろう。ボールペンやシャーペンならばほぼ均一のインクフロー、均一の字幅、均一の書き味だからである。つまり、我々がおかしい。変態なのだ。

自分のことは好き好んで不便を受容し、マイナーな知識を蓄え、書く喜びを感じる変態なのだと思って、世間様にピントを合わせていくように努めていきたい所存である。

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