【万年筆】腐ったインク

万年筆のインクは、少しケミカルな匂いがする。
そんなに強い匂いではなく、鼻を近づけるとかすかに絵の具のような香りがするものが多い。つまり、気にするほどのものでもない。

しかし、私が持つインクボトルの中で、ひとつだけ強烈な臭いを放つものがある。これがもう、「かすかな〜」「絵の具の〜」とか言ってられないほど、臭いがキツイのだ。

今これを書くにあたり、フタを開けて臭いを嗅いでみた。すると……

「ゔっ……ヴェッ……」

もう言葉にならない。むせ返って吐きそうになった。書き終えた今も鼻の奥に残り香があり、思い出してむせる始末。

とにかく、めちゃくちゃ臭い!
鼻をつくような、すえた臭いがする。これはアンモニア臭と形容してよいのだろうか。何がどうなって、こんな臭くなったのだろうか?

異常だと思ったので調べると、どうやら「インクが腐っている」ようである。ここまで具体的な社名や名称を避けたのは、それがインクの特性ではなく変質の結果によるものだからだ。普通、どの会社のものもこんな臭いはしない。

インクが腐る?と思うかもしれないが、インクだって水であり混ぜ物でもある。空気に触れたり雑菌が入ったりすると腐ることもあるらしい。

で、私の腐ったインクに思いあたる節があるかというと……むしろ、心当たりがありすぎた。

まず、ろくに洗浄せずインクの入れ替えをしたこと。インクの残量が見えず首軸をドボンと突っ込んだこともあるから、手を添えた面にガッツリ触れさせたことになる。
そして、つけペン的な感じで空気に長いこと触れさせたこともあるし、入れ替えにあたって万年筆に残る古いインクを返したこともあるし、間違えて別のインクを返したこともある。よくもお前腐らないと思ったなと思うレベルの愚行である。

これらは私が万年筆素人かつ文系すぎて「インクが腐る」という概念がなかったことによる。
ちょっとだけ臭ってきた頃も、「あ〜、この会社のインクってこんな臭いだったっけ」などと呑気に構えていたのである。いや、これは人間的な質の問題であり、素人とか文系とか関係ないかもしれない。ともかく、丁寧に扱う意識が薄かったと言わざるを得ない。

そして今、えげつない臭いを放つようになってから「いや、おかしいだろ」と思い直し、同社の他のインクボトルと嗅ぎ比べてみたのである。
結果、他のインクはほぼ無臭であり、こいつがいかに異常かを思い知らされた。そりゃ、会社がこんな超くさいインク売るわけないよな!

まだ残量があるのだが捨て、使用中の万年筆からもインクを抜くしかない。気に入っているので残念だが……こうなってしまった以上、買い替える他ないだろう。
万年筆も相当気を払って使うべきツールだが、インクもまた、早々に使い切る予定がなければ、大切に使っていくべきものなのだろう。それを痛感させられる、とんでもない体験であった……。


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