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【万年筆】万年筆の字幅について
万年筆の魅力的でめんどうな要素のひとつが、字幅である。
シャーペンやボールペンの場合、0.3mmや0.5mmといった正確な区分があり、とても分かりやすい。買い求める際も、それほど迷うことはないだろう。
万年筆にも一応、F(ファイン。細字)やM(ミディアム。中字)といった表記がある。ならば迷うことはないと思うかもしれないが、これが罠。実は字幅には「これは何ミリ」といった定義がないのだ。
それでも大まかなサイズが分かればいいのだが、定義はメーカーによって様々。特に、国産と舶来のものを比べると顕著だ。
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舶来万年筆は、国産のものと比べて太い。
万年筆ラバーの間で言われるのが、「舶来品は国産より1つ太いと思え!」ということ。つまり、舶来万年筆で国産のF相当のものが欲しければ、EF(エクストラファイン。極細)を選ぶべきなのである。ややこしい。
ぶっちゃけそれでも太い気がするのだが、これは細かい字を書く日本語と、サラサラとアルファベットを書く英語の違いによる。文化によってもこれだけ差があるのだから、字幅の表記だけでは選べない。
また、ペン先には個体差が存在する。
不良品と呼べるものは論外だが、万年筆はおおむね字幅やインクフローなどが微妙に違う。
これは様々な要因があるが、主には手作りによるものだろう。ペン先をオートメーションで作っていないメーカー、あるいは外注はかなり多い。また、どこも必ず人の手でチェックしているため完全に均一とはならないのだ。
LAMYの万年筆かなにかで見たことがあるが、スタンダードの字幅から±0.1mmくらいの個体差があるらしい。もし本当だとしたら、太いEFと細いFではほとんど差がない。不確かな情報ではあるが、実感として「これ、EFとFで太さ変わらんやんけ!」ということが何回かあったため、個人的には信じている。LAMYは個体差が大きい。
(国産は字幅の揺れは少ないと思う)
字幅が均一でないのは工業製品としてどうか、と指摘されることもあるが、逆に太さやインクフローが個人にバシッとハマり、無二の書き味を演出することもある。万年筆ジャンキーにとってはそれも味なのだ。
ちなみに、ここまで新品に限って話を進めてきたが、長期間の使用による摩耗で字幅が太くなることもある。これはもうしょうがない。愛用した証として受け入れよう。
そしてもうひとつ、字幅に影響する要素がインク、ノートの相性である。意外とここを無視しがちなのだが、万年筆を扱う上で大事な要素だ。
まず、インクについて。
非公式なデータにはなるが、インクには粘度がある。
粘度が高いとぬらぬらとした書き味となるが、インクフローが渋くなる。書くのがあまりに早いとついてこれないおそれもあったりする。
逆に低いと、サラサラとした書き味になるが、インクフローはよくなる。
さらにセーラーの顔料インク(青墨など)は、インクフローではなくインクの性質により、字幅が1段階下がったと実感できるほどシャキッとした線になる。水性ではなく、粒子で付着させるタイプだからにじまないのだろうか。
なお、粘度を調べる術はない。万年筆雑誌「趣味の文具箱」で何度か調査しているので、そちらを参考にしたい。大まかには、国産メーカーは粘度が低く、舶来品は高いかなといった印象。
当たり前だが、メーカーは自社の万年筆に合わせたインクの配合を行なっているため、純正インクであればそこまで変なことにはならないと思う。
しかし、コンバーターや西洋規格のカートリッジを使って他社のインクを使うと違いが生じる。あと、メーカーも無数にある他社インクまではテストしない。
とはいえ、インクフローや字幅で悩むときはインクを見直してみるのも一考である。
続いてノートについて。
ノートの吸水性も字幅に影響する。
ツバメノートのようなしっかりした紙だと線が細く見える。逆に、粗悪な紙だったり書き味を楽しめます系のノートだったりするとインクが広がって太く見える。
たまに万年筆のレビューで「裏抜けします!」とか「書けません!」といったネガティブな意見を発信する方がいる。もちろん、個体差が残念な方にいってしまった……ということもあるだろう。
しかし、実はインクの相性が最悪だったり(舶来にすごく水っぽいインクを入れるなど)、ノートの紙質が悪くてにじんでたりする方も見かける。これらは心がけ次第でどうにでもなる点だろう。
というか、水性のインクを紙になすりつける時点で、字幅は安定するはずないのだった。ペン先の個体差によるわずかなインクフローの差、インクの粘土、ノートの紙質などによって容易に変化する。変幻自在なのだ。
こうして、ユーザーを悩ませ続ける字幅の問題はある意味で悩みの種なのである。高いやつは試し書きをさせてもらおう。