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万年筆は万年使えるのか

万年筆関連の記事を読むと、よく「万年筆って言うくらいだからずっと使えますね!」と書かれている。まあ、万年(永い時)を名乗っているくらいだから、そう思うのも不思議ではない。

実際、万年筆は万年使えるのだろうか。
歴史的に100年程度、私には2年程度……しか使われていないから証明できないが、この意見は近からず遠からずなのではと思う。

まず、万年筆の「万年」は「永い時」を表しているのではないと思う。
その証拠として、他言語で「永遠」とか「万年」という意味をあてているものは、見ている限りない。英語だと「fountain pen(泉のペン)」だし、中国語でも「鋼筆」といった感じである。

では「万年」とはなにか。辞書を引いてみると、

①非常に長い時間。
②いつもその状態を保つこと。


とある。
私は、ニュアンス的に2が正しいと思う。「万年(ずっと、いつも)最下位」と言うように、「ずっと筆」とするのが正しいはず。
ボールペンや万年筆、鉛筆が使われる前、日本では毛筆やつけペンが使われていたそうだ。インクがなくなるたびに、付け足しながら書いていたのである。これは夏目漱石の「余と万年筆」にも詳しい。

漱石は「ペリカン(今のペリカンではないらしい)」を使っていたが、インクがボタ落ちしたり、あるいは出なかったりしたのでイライラしてつけペンに戻ったという。ところが、インクが切れるたびに筆を浸す作業が(万年筆を知っている分余計に)めんどくさく、再び万年筆……マニアに広く知られる「オノト」を使い始めた経緯がある。
(なお、ペリカンについては一度も洗浄もせずインクを取っ替え引っ替えするというタブーを犯しているのでそりゃそうなる)

というように、書くのに手間がかかっていたところ、インクを内部に貯めておける万年筆は革命だっただろう。当時の人は感動して、「ワォ!ずっと使える筆やん!」と名づけたに違いない。
よって、「ずっと使える」といっても、耐用年数の話ではなく持続時間のことなのではないかと思うのである。

……と書いてきたが、Wikipediaによると、

しかし、「末永く使える」という意味で「万年筆」の訳語を与えたのは内田魯庵というのが通説である[6]

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%87%E5%B9%B4%E7%AD%86

とあった。あら。どちらが正しいのか分からなくなったな。筆である時間がめっちゃ長いということだろうか。

まあ、おそらくニュアンスは誤って伝わってきたとはいえ、長く使えることには違いない。
ペン先は鉄や金で作られているため、すり減る速度がかなり遅い。ヘビーユースでもかなりの年数を耐えるようなので、筆記することも極端に減った現代ならば、それはもう末長く使っていけることだろう(メンテナンスを怠らなければ)。
私の手元にも5-60年前のものがある。まあ、これらはまともに使われてこなかったから摩耗が少ないのだと思うが、丁寧にケアをして使えるようにした。半世紀前の筆記具を使うのはロマンがあって楽しい。
ちなみに、ヴィンテージモデルは書き味が柔らかいことで知られる。むしろ現代人がボールペンや鉛筆に慣れて筆圧が高く、硬めに作ってあるらしい。当時に合わせられるのであれば、それは心地よい筆記が楽しめるはず。

万年筆が万年使えなくなるのは、軸やペン先の劣化によるものだろう。昔のものは技術的にも劣るため、構造がダメになったり腐食したりしやすい。
企業のサポート体制も重要だ。いわゆる国内三社(パイロット、プラチナ、セーラー)の古い万年筆は現行カートリッジが使えるのだが、なくなった会社のものはなかなか厳しい(といってもあまり出回っていないが)。企業が存続しているとしても修理対応に限りがある。なるべく大事に扱うべきだ。

また、これは感性によるものだが、古い万年筆を「ダサい」と思ってしまうこともあるだろう。普遍的なデザイン、攻めたデザインなら逆にカッコいいとさえ思えるが、そうでないものはキツい。
積極的に買い換えるものでもないのだが、そうなると継ぐとか譲るといった際に使い続けていけるのか疑問。そもそも、万年筆自体が日陰の筆記具である。ボールペンやシャープペンシルが主流の今、あえて使う意味もないのだ。それに所有者の書き癖がつくため、調整を要する。それでも使い継いでいけたらその万年筆は幸運である。

と、ここまで万年筆が万年使えるか考えた。
頑張れば使えると思う。万年筆を万年使うには厳しい時勢だが、丁寧に使っていけば末永く使っていけるツールであることに違いない。

と言っても、私は節操なく万年筆を集めている身。逆にかなり大切に扱っている(ローテ間隔が長く、出番がなかなか回ってこない)ため、永遠に使える気さえしてきている…。早く一途になって、「コイツが万年使ってきた万年筆!」と呼ばれる一本をこさえたいところである。


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