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【万年筆】デッドストック探訪 その1

これは、万年筆のデッドストックを探しを行った日の話。案外面白かったので書き留めたい。

デッドストックとは、「売れ残り」「長い間倉庫に眠ったままの商品」を指す。「不良在庫」「死蔵品」とも。
需要がなかったとみなされるかもしれないが、巡り合わせが悪いとか流行に乗れなかったといった理由で忘れ去られたものもあり、それらはヴィンテージとしての価値が高い。「見つかっていなかった」だけの新品が眠っていることがあるのだ。

万年筆のデッドストックには現行品と異なる魅力がある。

まず、昔の万年筆はペン先が柔らかい(しなりがある)傾向にある。現行品が硬めというべきか。筆記具のシェアをボールペンに奪われたいま、現代人の筆圧は高い。
そのため万年筆も、必要に迫られ硬くなったようだ。ボールペン普及以前の人々が慣れ親しんだ柔かさを求める人も少なくない。

また、同じメーカーであれば現行の純正インクカートリッジがそのまま使える。周辺パーツまで古いもので揃える必要がないのだ。
それでいて古い万年筆にありがちなメッキ部の劣化、インクの固着が少なく、前の持ち主の書き癖がつくことがないためハズレを引く確率が低い。そういった点で、万年筆のデッドストックには心惹かれるものがある。

説明が長くなった。

私はド平日に有給を取り、ある町へ出かけた(詳しい場所は伏せる)。そこは古くから続く文具店がいくつか並んでおり、デッドストックと巡りあえる可能性は高い。
実は昨年も訪れたのだが、日曜日だったためにどこも閉まっており、目的を何ひとつ達成できなかった。
その苦い経験から、今回は万全を期して平日に訪れたというわけだ。有給までとって、万全を期しすぎなのはさておいて。

しかし、ものすごく暑い日だった。数日は涼しく、すっかり暑さはなりをひそめ……と言いたかったが、まるで私を試すかのようにその日だけ暑さがぶり返してきた。
こんな日(平日)に、しんどい顔をしながら文具店を物色してまわる青年(と言わせてくれ)…。店員からしたら、さぞ滑稽に映ることだろう。

このように苦労して回ったのだが、結論から言って、ほとんどの店にデッドストックはなかった。ショーケースに現行品を並べていたのだ。もしかすると倉庫にあったかもしれないが、「あの、万年筆が見たいので倉庫開けてくれませんか?」などと言うわけにはいかないので(買わないかもしれないし)、「ここにはない」と判断しておいた。売れないものを置き続けることはないのだろう。

しかし、万年筆以外ではかなり古いものもあったので、店にはやはり歴史はあるんだなと感じた次第。中には「なにこれ?」というものもあったので、いずれ紹介したい。

そして、最後の店舗。
そこはいかにも年季が入った店構えで、「親子3代」といった言葉が似合う店だった。勝手なイメージだが、地元の役場や事務所と取引を行っていそう。もしかしたらここなら、万年筆を揃えているかもしれない!

淡い期待を持ち、ふとレジを覗いてみると……あった!いかにも古そうな万年筆が!これにてひとまず、デッドストック探訪の第一目的を達成したことになる。目撃できて、本当に良かった…。

善は急げ。店主らしき方に、「すみません、万年筆を見たいのですが…」と声をかける。すると、店主は「万年筆とか言う人、まだいたのか!」という顔をして、「はいどうぞ〜」とケースを見せてくれた。

「これはっ…!」

ケースに並ぶデッドストックの数々!十数本はあろうかという品々は、明らかに現行のラインナップではない。というのも、ショート軸が多かったからだ。私の感覚では、昔の万年筆は外で使うため軽量化、コンパクト化しがち。ちょっとでも重いものは珍しい。
ぱっと見、1980代のものが多いだろうか。店を訪れる多くの方にとっては高い筆記具くらいの認識だろうが、私にとっては貴重なタイムカプセルだ。

「う、うおぉ…すごいです(笑)」

と、お手本のような気持ち悪いオタクの返しをして「そんなにすごいの?」とそばにいた店員さんが笑う。話を聞くと、店員さんは万年筆を使ったことがないらしい。ここにいる人でさえ使ったことがないとなると、なるほど今目の前にあるのは、時代に取り残された遺物だ。歴史を考えると、急に秘密のカギを開けたかのような恐れ多さを感じた。

私はあらかじめ「1本買おう」と決めていたので、これほどの数となると、当然悩む。というか、1本1本が予算をオーバーしている気がしてならなかった。しかしもう、引くに引けない。大切に使い続けたい1本を……

と考えていたところで、店主が「おう!ちょっと待ってな!」と言い、店の奥に向かう。私は察しがいいので(?)、「なんだろうか」「何が起きるんだろうか」などと思わなかった。

「ま、まさか……」

その、まさかだった。

「お待たせぃ!」

店主の手には、万年筆が10本は収まるケースが1つ、2つ……3つ!?
い、いや、在庫を持ってくるんだろうと思っていたのだが、もしかして全部万年筆なのかよ!?

「えぇ〜!?」

想像以上の多さに、思わずのけぞる。店員さんも、あまりの多さに少し引いていた。店にあるデッドストック、大放出である!

眼前に広がるは、至福の光景。この事態は全く想定していなかっただけに、来た甲斐があった…とつい感動してしまった。
しかし、1本買おうとしていたのに、選択肢が広まってしまった!果たして、私はどうしたのか……

時間がないので、続きます。

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