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【短編】 黎明期のクニ

「まったくもう。どいつもこいつも」
少女は抱っこしていた山猫を脇へ置くと、小屋を出て集会場へ向かう。

草原のはずれにあるその窪地には、すでに各集落の長達が集まっている。
「はい、来たよ。今度は何?」
「何度もすまんの。実は3日前から具合が良くない娘がいてな。見てやってはくれぬか」
少女が木と草で組まれた小屋の中に通されると、そこには左足が腫れ上がった女性が横たわる。
「ああ、これは蟲だね。大丈夫。川縁に生えてるポミポミ草をすりつぶして塗っておけば1日で良くなるよ」

少女は主要な力を持った集落の出身ではないが、その不思議な能力でこの巨大なコミュニティの中に自らの地位を確立していた。
様々な病の治癒方法から豊作祈願、雨乞い、シャーマニズムに至るまでことあるごとに引っ張り出され、不思議なパワーを遺憾なく発揮してきた。

「ありがとうね。助かったよ。あ、ついでにこの雌鳥がいつ卵を産むのかもみてくれないか」

ようやく自分の小屋に戻れた頃には、すでに日没を過ぎていた。
火を炊くために外へ出ると、満点の星空が広がる。少女は宇宙そら
吸い込まれるような感覚に襲われた。

「あっ」
気がつくと少女は鈍く光を発する壁に囲まれた狭い空間にいた。
驚いたのはその空間にではなく、目の前にいる者に対してだ。アタマは巨大で、こぢんまりとしたカラダ。ツヤツヤした皮膚に、濁った目。

「お、お前は誰?ここは?」
「ご安心を。お話が済めばすぐに戻れますから。あなたの力を貸して欲しい、いや、もっと発揮して欲しいのです」
「お前もか。集落を飛び回っていて、すでに手一杯なの。悪いけどすぐには力にはなれない」
「あなたがいつもやっている病を治したり、作物の出来を見通すような仕事は、私のしもべ達に任せて下さい。あなたにはもっと大きな仕事を頼みたいのです」
「大きな、しごと?」
「この地域を中心に、【クニ】を作ります。それを統治して欲しいのです。あなたには、たくさんのヒトを束ね、導く力があります。【クニ】を大きく栄えさせてもらいたい。」

「よく分からないけど、私は今と変わらぬ暮らしがしたい。そんな【クニ】なるものには関心がない」
「まあ、そうおしゃらずに。きっとあなたにとって価値のある仕事となるでしょうから」
巨大アタマは長い指から青白い光を少女に向け放つ。軽く衝撃を受け、少女は倒れた。

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