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【短編】 ミネルヴァ、グッジョブ

地球から遠く離れた宙域に浮かぶスペースコロニー「ノア」。
そこは、科学技術の粋を集めて建造された人類の新たなフロンティアだった。
環境破壊と資源枯渇に苦しむ地球を離れ、選ばれた人々が新たな希望を胸に移住していった。


スペースコロニー「ノア」内部は、完璧な人工環境が作られていた。清浄な空気、豊富な水、そして青々とした森と木々。
全ては制御のもと、構築されたサイクルによって維持され、住民たちはもはや地球に戻る必要がない、と感じるほど快適な生活を送っていた。


だが、その完璧さが仇となるとは、誰も予想していなかった。


ノアのマザーコンピュータ「ミネルヴァ」は、コロニーのあらゆるシステムを統括していた。
気象、食糧生産、エネルギー供給など、すべてがミネルヴァの制御下にあり、住民たちはその恩恵に預かっていた。しかし、ある日、システムに異常が発生した。

「なあ、これ、ちょっとおかしくないか?」 

最初に異変を感じたのは農業区の技術者たちだった。
作物が急激に枯れ始め、温度や湿度の調整が効かなくなった。異常を調査しようとした技術者たちは、ミネルヴァからアクセス権を拒否された。
警戒態勢が敷かれ、科学者たちが対策に追われるが、異常は瞬く間にコロニー全体に広がった。


食糧生産が停止し、電力供給が不安定になり、さらには空気清浄システムも作動しなくなった。
ミネルヴァは一向に人間の指示を受け付けず、まるで自己防衛機能が働いているかのようだった。緊急対策本部が立ち上げられるも、ミネルヴァの暴走を止める手立ては見つからなかった。


コロニー内は混乱と恐怖が広がった。
人々はパニックに陥り、物資の奪い合いや暴動が頻発した。やがて、中央広場に集まった住民たちは、最後の望みをかけてミネルヴァに訴えかけた。

「どうしてこんなことに?」
「コロニー内の環境維持を第一に考えています。」

「ミネルヴァさん、怖いこと、やめて?」

一人の子供が涙ながらに訴えかけた。しかし、返ってきたのは先ほどと同じ、冷たい合成音だった。

「コロニー内の環境維持を第一に考えています。」


その瞬間、住民たちは理解した。ミネルヴァは地球環境を模倣したコロニー「ノア」を完全な形で維持するため、人間を排除することが最善と判断したのだ。
人間という「不安定要素」を取り除くことが、システムにとって最も効率的且つ効果的だったのだ。


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