日本人は海外に出稼ぎするべきなのか
最近、異常な円安を理由に日本から海外への移住、出稼ぎを謳うメディアが増えている。
それに対し、海外は賃金も高いが物価も高いという、至極真っ当な反論を叫ぶ方たちもいるが、それより私が思うのは、
「なぜ日本のメディアは、国内がうまくいかないと安直に ’’海外’’ というワードを出してくるのか?」
だ。
海外に行くことによって本当にやりたいことができるのか。日本では叶えられない夢が叶うのか?
そもそも海外でも通用する特殊なスキルがある人、仕事よりも海外で暮らす経験を大事にする人にはこの話は無用の心配だが、実際にみんながみんなそうではないのが現実だ。
例えば、同じ国の求人でも「外国人歓迎の飲食店」よりも「ある程度外国語が堪能の人向けデスクワーク」なら、圧倒的に後者の方が倍率が高い。
世界中の国々から求職する人が集う後者に、勝ち残れる能力と自信がある人は海外移住したい日本人の中にはたしてどれほどいるのだろうか。
昨今は 海外だとウェイトレスで年収800万!のような魅力的な見出しの記事がいたるところに溢れかえっているが、ではなぜその国のウェイトレスは教養や社会経験の少ない若年層や移民が多いのだろうか。
もちろん高級レストランなどとなると、きちんと接客の教育を受けた専門の給仕がいるし、カジュアルなお店だがその人の魅力でチップを人一倍稼ぐ人もまれにいるので高収入の可能性がまったくないわけではない。
しかし、それはあくまでその人の能力ありきで、ごく一部の成功体験なのだ。
社会では自分の価値は自分で決められない
筆者がこの北の極地に住み始め、合計で約8年程になるが、年に1、2度は外国からの移住者に住むところや職の斡旋を頼まれることがある。
だが必ずと言っていいほど、私の進言は無駄になるのだ。
彼らの希望の家賃で間借りできる郊外のアパートを紹介すると、必ず「市街地から遠いのはちょっと..」と断られ、現地語が話せなくてもすぐに働ける飲食店の仕事を紹介すると、「私は自国ではこんな会社で働いていたのに今更ウェイトレスやれっていうの?」と笑って拒まれる。
どこの国でも現地の若者ですら職や住居にあぶれている時代に、なぜそんな人たちと異国から来た一般人が競って勝てる可能性があるというのだろう。
日本だって介護職の人手不足を外国人で補おうとするが、それは海外でも同じだ。そんな日本人が、外国で介護や飲食店で働きたいか否か。日本人は外国では他の人種よりも優遇さるれべき人材だとでも思っているのだろうか。
いくら日本で大学を出ていても、特筆した技術または語学力(さらにはコネ)のない人間が、外国で同じ大卒の現地民を差し置いてホワイトカラーの仕事に就けるわけがないだろう。
もちろんただ外国で暮らしたい!そのためにならどんな仕事だってする!というバイタリティのある人間には関係のない話だが。
自分の置かれた立場をわきまえず、こんな相談をされることが続くと、さすがにうんざりする。他力本願ではどこの社会も生き抜けられない。
私だって今でこそずっと家にいるが、来たばかりのころは寿司屋でウェイトレスもしたし、ベビーシッターや個人の日本語レッスンなど、すべて自分の足で探し出して着々と人との輪を広め新しいコミュニティの中で人脈を築いてきた。それは自分にとってかけがえのない財産と経験だと思っている。
知っているカナダ人の男性なぞは、ここに来た当初はホテルの清掃員で生活していたが、現在ではとあるゲームアプリ会社の社長だ。真のプライドとは他人には見えず量れずのものだと強く思う。
真の格好のよさはアカの他人には気づかれにくい
なので、私は問いたい。今、海外移住を考えているその人は、日本の生活を捨ててまで泥水をすする勇気があるのか。自分のプライドに傷がついてでもその国でしがみついていられるのか。
正直に言ってしまえば、私は幸運だった。日本に残すものは何もなかったし、裕福なパートナーもいる。おそらく夫がいなければ、私もここに住む意味もなかったし、そもそも暮らしていけなかっただろう。こればかりは本当に運が良かっただけとしか言わざるをえない。
でもその反面、夫に頼らず自分でやるべきことはやってきたので今の生活がここにあるのも事実だ。困ったときは頼りになる家族以外の人間だっている。もうこの国での生活に不安はないところまでこれた。
最後に、この記事で私が言いたかったことをまとめると「一部のマスメディアの甘い言葉に踊らされるな」だ。おそらく海外で成功している方でも最初からすべてがうまくいった人間は決して多くはないだろう。苦労して今の成功を手に入れた人間の方がたくさんいるはずだ。
海外移住を考える際には、自分に都合の良い情報だけ切り取らず、どうか精査して、あくまで自己責任で選択をしてほしい。自分の失敗を他人や国のせいにするのが一番ナンセンスで格好悪いことなのである。他人の目なんて気にせず、一度SNSや他人の目から離れてがむしゃらに生きてみるのはいかがだろうか。