どうしてUber配達員は増えないのか?原因は?
他の仕事に比べて圧倒的な自由度の高さを誇り、収入も他のアルバイトやスポットワークに比べると高く、時には圧倒的な高さになることもある。
シフトなし。人間関係もほぼなし。自由。
サポートも万全なので、端的に言えばただ運ぶだけでいい。それだけで稼ぐことができる。
それがUber Eatsを始めとするフードデリバリーの配達員だ。
人は自由を望む。自由は翼である。フードデリバリーとは、まるでレッドブルのごとく翼を授けてくれるものである。
異なる収入源を確保したいサラリーマンから、FIREを目指す人、今より高収入を求めるフリーター、開業資金を貯めたい若者、そして会社組織では働くことが難しい人にまで。
面接もなく銀行口座さえあれば誰でも配達員になれるので、事実上ほとんどの人に平等に翼を授けてくれているのだ。
実際、収入は他のアルバイトやスポットワークと比べて高いことがほとんどで、時には東大在学生の家庭教師を超え、水商売と同等かそれ以上に達することも。額でいうと概ね1500~2500円程度で、高い時には6000円以上も可能である。(本人の体力や乗り物、エリア、天候や需要状況などにより変動する)
こう聞くと、多くの人がフードデリバリーに殺到するはずだ。
でも、実際にはそうなっていない。
むしろ以前より減っている。
2022年7月時点の過去12ヶ月の実績では、フードデリバリー配達員は約13万人いたという。
それが今年(2024年)5月の段階では約10万人に減少したとか。
筆者の肌感覚では、その時よりも更に減少したように思う。特に夏以降。
7月下旬~8月上旬頃には、ダイナミックプライシングが働かずに「猛暑で需要が高いのに報酬単価が安い」という状況になり、配達員は配達しないし、客も送料が普段より高いのに届かないという最悪の状況になっていた。
これを機に配達員をやめた人、登録はしていても配達を休止した人も少なくないのではないか。
その後報酬単価は回復したが、まだ配達員は戻ってきていない。
一方で、新規配達員の登録も少ない。特に今年以降はこれが顕著であるように感じる。
フードデリバリーが一気に注目を浴びた2020年頃は、時短営業などの影響でフードデリバリーの需要が一気に高まった時期で、コロナ禍の影響で職を失ったり一時的に休業状態になった人も多かった。このこともあり、ちょっとした「配達員登録ブーム」が起きていた。
しかし、次第に景気が持ち直していくと、本業がある人は本業に戻ったり、配達員自体をやめたりしていった。
この流れは概ね現在まで続いている。
閑散期のはずのこの時期でさえ、普通にオファーが来るし、場合によっては爆鳴り状態であるほど。
つまり「やめる配達員は多いが新たに始める配達員は少ない」という状況で、全体として減少が続いている。
この原因は一体何なのだろうか?考えてみる。
(1) 配達員が増えない原因
1. 「稼げない」などの負のイメージの影響
フードデリバリー配達員に関しては、コロナ禍初期などの一時期を除いてほぼ一貫してネガティブな報道がなされており、「報酬減少」「配達員が起こした犯罪」「清潔感のない服装」などが目立つ。
加えて一部週刊誌などがYahoo!ニュースなどで「報酬激減」などを(事実と異なる場合も含め)ネタにして投稿することが多く、必然的に多くの人の目に入る。
筆者が見てきた「報酬激減」ニュースの事例と実体験、周囲の配達員の状況を照らし合わせると、実際には季節などによる需要の関係で一時的に減少しただけで、トータルで見るとフードデリバリーが注目されていた2020年頃に比べて稼ぎやすくなっているのだが、こうしたポジティブな面についてはほとんど報道されない。
一例がこの記事である。
この内容は「あまりにもネガティブ方向に誇張しすぎた内容」だと断言していいし、はっきり言って営業妨害レベル。Uber Japanはなぜ黙っているのか?
2023年4月に書かれた記事だが、当時の段階でも「1件300円」はお店と届け先がごく近接した場合など一部のみで、ほとんどは常識的な報酬が提示されていた。いや、むしろ1件2000円以上などの「非常識な報酬」も多かった。
現在の東京都の最低賃金である1072円を大きく下回っている?
よほど暇な日や時間帯に暇なエリアで配達し、オファーを選びすぎるのでなければ、まずない。配達経験のない人が勝手に想像しただけではないか。
Uber Eatsの配達報酬が一番低かった時期は、筆者が知る限りだと2021年秋ごろから翌年にかけて。ちょうど出前館が送料無料キャンペーンをしていた時期だ。この時期は確かに距離や時間に見合わない1件300円のオファーも少なくなかった。だが、時給換算800円程度まで落ち込むことはよほど暇な日や時間帯に暇なエリアで配達しない限りほとんどなかった。
どうやらこの頃の内容を元に、創作を加えて話した可能性が高い。
つまるところ、ネガキャン記事であるといっても良いレベル。問題はこれが一つや二つではなく、今年に入ってからもいくつも量産されていることだ。
これらの記事の配達報酬に関するネガティブな内容はほとんどが事実と異なる内容か、事実でもネガティブな面を過度に誇張したものであると、現役配達員である筆者が断言する。
全然違う。普通に雨じゃなくても1件800円はごく普通。もしかしてピークタイムを外して閑散期の平日にしか配達してないのだろうか?と思う。Woltもピークタイムなら1件800円は3~4kmの配達距離で提示される額だ。
オフピークでも1件270円は距離単価が0kmの場合の理論上最低値である。
筆者が配達員として配達して感じる感覚では、「以前より稼ぎやすくなった」であり、以前なら暇だった日でも、ピークタイムは時給にして3000円を超えることも多くなった。以前よりリクエストが届きやすくなったし、時間あたりの単価も以前より良くなったからである。Woltだが、雨の日だとこんなオファーもあった。
(メディアはこの事実は絶対に報じないだろうけど)
執筆時点(9月末頃)では、季節の変動による一時的な需要減・配達員の増加のため、以前と比較すれば多少単価は下がってはきているが、時給600円はありえない。
「今は配達員過多だから、新しく配達員が増えると稼ぎが減る」と思い込んでいて、新しく配達員を始める人を減らすことで自らの既得権益を守るため(実際にはそれ自体が的外れなのだが)に、意図的にやっているのではないだろうか?
そうとしか思えない。
こうした記事は一般人の注目も受けやすいため、拡散されやすく、多くの人が「フードデリバリーってこんなに稼げないんだな」と思うようになる。
これらの記事が、新たに配達員を始めようと考える人を思いとどまらせている。
結果として配達員の減少に歯止めがかからず、配達員不足にも一層の拍車がかかっている。
もちろん、その「恩恵」として、以前なら暇で最悪の場合は最低賃金近くまで稼ぎが落ち込んでいたはずのこの時期でも比較的リクエストが多く、以前より稼ぎやすくなっている。
だが、需要が増大した場合などには「配達員が足りないせいで注文制限がかかり、運べなくなるorダイナミックプライシングが働かず報酬単価が安くなる」などのネガティブな影響が起きる。
実際、7月下旬から8月中旬にかけて続いた報酬単価減少の原因は配達員不足である可能性が高い。
ここ最近や例年の傾向から推測すると、
猛暑のため稼働する配達員が減る→需要に対して極度に不足する→単価を上げても配達員が決まらないとAIが判断し注文の受付を止める→注文数が減る→ダイナミックプライシングの判断因子の関係(と推測される)で単価が上がらない→配達員が受諾しない→注文数は減っても稼働する配達員がそれ以上に不足する→遅配・廃棄事例の嵐…
という状況であったと考えられる。一部に見られる「意図的に単価を下げた」は陰謀論の類だろう。
「高い報酬単価を設定し、注文を絞る」のが本来あるべきダイナミックプライシングだが、システムの問題なのかそうはならなかった。
中には「夏休みで配達員過多だったせい」と主張する者もいるが、例年の傾向としてこの時期は夏の最繁忙期であり、通常なら報酬単価や鳴りがかなり増えるため、現実的にこの意見が妥当と考えることは難しい。
さらにいうと、データがないので推測になるが、学生配達員は以前と比べかなり減ったものと推測され、割合としても少ないため、彼らが単価を大きく下げるほどに影響するとは考え難い。
また、店舗から見てもなかなか配達員が決まらず、閉店後の店じまいに支障をきたしたり、果ては店舗側が「遅い」とクレームを受ける自体まで起きている。
客から見た不利益については言うまでもないが、配達手数料の増加・到着時間が伸びる・冷めた状態で届く等々。
さらに社会全体で見た場合、一人当たりの所得への悪影響や賃上げ圧力の減少、人材のミスマッチが解消されないなどの悪影響が大きく、計り知れない。
個人単位で見ても、身近に稼げる手段があるにもかかわらず、これを知らないことで闇バイトなどに応募して検挙され、多額の賠償金などで人生が破綻したり、性風俗に不本意ながら追い込まれる、ブラック企業から抜け出せない、極端な例では生活費を賄えずに破産するなど悪影響は大きい。
もし、そういった人々が「Uberで配達員をすれば今の状況から抜け出せる」という希望を持っていたなら、彼らはどれだけ救われただろうか。
誰もが「配達員=いつでも自分のやりたい時に出来てバイトよりも稼げる美味しい仕事」という認識を持つようになった方が、全体で見た際に損失は少ないはずだ。
他には、「交通ルールを守らない」「身なりが汚い」などの偏見も含めたマイナスイメージも影響し、いわゆる3K職のように捉える人もいることも、配達員が増えない原因であろう。イメージアップが必要不可欠である。
(実は、Uber Eatsが日本に上陸した初期は「自由にできる副業」のようなイメージで、今よりもイメージが良かった)
2. 企業側の無関心、アピール不足
そしてもう一つの問題は、Uber Japanがこうした「ネガキャン記事」に対して何の抗議もせず、配達員にも何の説明もしていないことである。
悪い意味で無関心なのだろう。
Uber Japanは、自らが率先して求人をしたり、配達員の仕事をPRするのではなく、最大で25,000円の紹介料インセンティブを紹介者に与える方法で配達員を確保する戦略をとった。
いわば、PRと求人を紹介者、ひいてはインフルエンサーに「代行」する形態である。
2020年頃、フードデリバリーが一気に注目されるようになった頃は、当時のコロナショックもあってちょっとした「配達員ブーム」が起きたこともあり、これが比較的うまく機能していたように思う。
だが、既に4年が経過し、人々の関心も低下し、ネガキャン記事の影響や一部配達員の既得権益確保目的のネガキャンもあり、前述したような「稼げない」イメージが強まりつつある。インフルエンサーも配達員の仕事をPRするような活動を積極的にしている者はもはやいない。
しかし、Uber Japanはこのやり方を改めていない。
「配達員なんか紹介料を餌にすれば勝手に来る」とでも思っているのだろうか。
就職難の時代ならそれが通用しただろうが、今は人手不足の時代である。そんなことをしている間に配達員は減り続けている。
2022年秋以降、配達員が足りないと単価を積極的に上げることで遅配や廃棄の防止を図っていたが、その結果として赤字になった。
さらに、配達員自体がいないと単価を上げたところで無意味なため、持続可能性としても限界が見えてきている。
現在は、配達手数料を引き上げることで配達報酬を賄う方向性にシフトしているものとみられ、現に1件2000円以上などの超高単価案件は雨の場合でも減少してきている。
そうすると今度は「単価が思ったより良くないから配達しない」という配達員が増え、配達員不足がより悪化する負の連鎖になる可能性が高い。
だからこそ、会社側が率先して配達員という仕事の自由度の高さ、報酬の高さ、万一の際の保障などのメリットを積極的にPRすべきだ。
Uber Japanは、注文客向けのPRは様々なメディアでかなり積極的に行っていることから、新規配達員を確保するためのPRもできないはずがない。
書類選考なし、面接不要でいつでも自由に働けるのに、時給換算2000円は普通で4000円以上も稼げる、週40時間程度の稼働でも月収35万円以上、中には月収100万円稼ぐ人もいる…
このことをより多くの人が知れば、配達員になりたいと考える人は増えるはずだ。
できないのではなく、会社側が怠っているだけだと考えざるを得ない。
「配達員=いつでも自分のやりたい時に出来てバイトよりも稼げる美味しい仕事」という認識を広め、それ以外にもネガティブイメージを改善する主体と責任は、Uber Japanなどフードデリバリー各社とJaFDAにある。
企業としても配達員を増やした方が報酬を必要以上に上げる必要もなくなって利益を出しやすくなるはずなのに、なぜやらないのか本当に不思議だ。
3. 人手不足の加速と賃上げ
(以下加筆予定)
(2) 配達員が辞める原因
個人のキャリアの事情
企業側の姿勢