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【映画】異人たち All of us strangers/アンドリュー・ヘイ


タイトル:異人たち All of us strangers 2023年
監督:アンドリュー・ヘイ

山田太一版の、というより大林宣彦版の「異人たちとの夏」の内容を反芻しながら観てしまうのは仕方ないにしても、それ抜きに観ていたらどの様に受け止めていたのだろうとふと考えてしまう。
もともと怪談っぽさとマジックリアリズム的な過去との邂逅が前面に出ていた映画だけに、ファンタジックな描写は大きく異なってくる。「異人たちとの夏」での大林宣彦らしいファンタジックさは、失われたノスタルジー全開な高度成長期のアパートの様と、バブル期の対照的な現代の様のコントラストが郷愁を高めていた。両親と場所という失われたものの残像が、その対照の中に懐かしさと取り戻したい時間を上手い具合に閉じ込めていて、物語に絡み合っている。
本作「異人たち」は舞台をイギリスに移し、ロンドンのタワーマンションとクロイドンの生家を行き来する物語に置き換え、マンションの住人を男女から男ふたりに変更されている。流石に寄席に置き換えるものが無かったのか、父親との邂逅は原作ほどファンタジックではないにしろ、夢の中に迷い込むような雰囲気はあった。
基本的なプロットの大枠は変わらず、両親の事故死によって失われた時間を取り戻すべく、親子の時間と対話が大筋ではあるものの、主人公がゲイであることで物語で描かれる喪失感はより大きなものとなった。ゲイである事で愛することを知る事ができなかった主人公アダムと、同性愛への偏見の強い1987年の時代の両親との対話は、失われた時間の中で本来はなされるはずの会話や軋轢をも生み出す。この辺りの扱いの上手さはアンドリュー・ヘイらしい描写で、時代の移り変わりと過去との関わり方が絶妙な描写だったと思う。子供時代とすでに両親と同じ年頃になったアダムがオーバーラップした時の時間の経過は、埋めることの出来なかった両親の不在を強く感じさせる。生きていればあったかもしれない人生を、確認しながらの対話と別れはやはり裏寂しいものがある。
一方マンションの住人ハリーとの物語は、原作と違って関係を止める人物がおらず、ラストが大きく変更されていた。この辺りの変更は好みというか、映画の表情が大きく変わっているので好みが分かれそうな気もする。
フランキー・ゴーズ・トゥー・ハリウッドやイレイジャーなど、80年代イギリスのゲイカルチャーも盛り込んでいて、ゲイクラブやマリファナとコカインなどのドラッグも出てくる辺りはイギリスらしい。
中々「異人たちとの夏」と切り離してはみる事が出来ない故に、評価のつけづらい作品ではあるものの、死別と孤独という根本をしっかり押さえた作品だったと思う。ポール・メスカルが出ている事もあって、「アフターサン」に近い喪失感が鑑賞後感を誘う。

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