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【映画】フェアウェル The Farewell/ルル・ワン

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タイトル:フェアウェル The Farewell 2019年
監督:ルル・ワン

主人公のビリーを演じたオークワフィナといえば、2018年の「クレイジー・リッチ!(Crazy Rich Asians)」でもインパクトのあるキャラクターの印象が強く残っている。コミカルなキャラクターという点では「オーシャンズ8」の出演もあるが、本作では祖母の病気への不安を顔に出すまいとするシリアスな演技がそれまでの作品とは違った雰囲気を醸し出していた。とはいえ家族が直面する悲哀に直面すればするほど、隠そうとする姿が滑稽で観ている方はくすくすと笑いが止まらない。物語は監督ルル・ワン(恋人は「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス)の実体験に基づいているのだけれど、「クレイジー・リッチ!」と同様にアメリカで暮らす中国系という出自と、中国本土の人々とのギャップが描かれている。6歳でアメリカに渡り生活していたこともありリベラルで個人の自由を優先する生き方と、中国の人々の個ではなく社会全体が一つの共同体である考え方の違いによるコミュニケーションの違いが主題でもある。アジアと言っても当然一括りには出来ない文化の違いがあり、アメリカ、日本、中国といった暮らす場所の立ち位置の違いも大きい。アジア圏では個よりも社会全体を優先する見方は共通しているとは思うのだけど、中国は血縁関係の繋がりを重んじる部分が強い。そんな環境が異なる人々が結託しながら嘘を付くという、アンバランスな関係は一歩間違えるとベタで陳腐な物語に陥りやすいと思うのだけれど、俳優陣の素晴らしい演技もあり見事なバランスで描ききっていた。
昨今の中国が舞台になった映画を観ていると、とにかく建築中のビルの姿が確認できる。新しさや経済成長の証とでも言っているような背の高いマンションがにょきにょきと建っているが、ビルのふもとをよく観ると多くの古い一軒家が並んでいる。ビリーが6歳の頃まで遊んでいた虹の形のゲートがある公園も、役目を終え取り壊されようとしていた。スクラップ&ビルドが繰り返される街並みは、ペンキの禿げたコンクリートの壁のような使い古されたものの中に、有料の電動自転車など現在的なものが突如現れたりする。人々と同じくらい街の姿も、映画の重要なキャラクターだったように感じた。フェアウェルというタイトルは、街の移り変わりにも告げられているようにも思えた。
アメリカよりも中国の方が稼げるから戻ってこいと言われながらも、キャリアを考えて子供をアメリカに留学させる親もいて、アイデンティティの揺らぎというのも今の中国の現状を描いていて興味深い。アイデンティティの揺らぎは、監督がアメリカでアジア人として暮らしている中での自分とは何者かという問いにも近いのかもしれない。

それにしても「ミナリ」といい、字幕を嫌うアメリカで立て続けにアジアの人々を描いた映画を配給しヒットさせたA24は凄い。ひと昔前だったらアメリカ資本がちらつく内容になっていたと思うのだけれど、そうならない所が今のアメリカのインディペンデントの面白い所だとつくづく感じる。
誰が本当の「嘘」をついていたのかはエンドロールを観てのお楽しみ。

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