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お嬢さん 아가씨/パク・チャヌク

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タイトル:お嬢さん 아가씨 2016年
監督:パク・チャヌク

冒頭の車が走るシーンから、あの和洋折衷の建物が映るシーンまでだけでただならぬ映画だという予感がよぎる。一体あの建物はなんなんだ?恐らく観た人は真っ先にそう考えると思う。あの建物はどうやら三重にある六華苑という実在するものらしい。

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キャラクターだけでなく、建物や土地に語らせる映画は台詞以上に大きな存在感をもつ。それが有るだけで説得力の強さを感じさせ、言葉は無くとも饒舌な語り口を与える。例えばスタンリー・キューブリックの「シャイニング」のあのホテルがそうであったように、余計な説明が無くても全てを語ってくれるような物語がそれだけで生まれてくるようなインパクトがある。
パンフォーカスで捉える均一に揃って生えた木々の並ぶ林のシーンや、ラストの客室のシーンなど熱を帯びた演技が繰り広げられながらも、客観的な視点の中で敢えて熱を冷ますような演出がなされている。屋敷から抜け出すシーンの上空から舐めるように流れるシーンなど、韓国映画らしいスケール感が存分に描かれている。
秀子と珠子のセックスシーンは「アデル、ブルーは熱い色」を思い起こさせるものの、あの書斎で秀子が得た知識がこの情事の伏線になっているのは中々粋な演出だと思う。耳年増な状態だったからこそ、来るべき瞬間に備えられたというのはかなり皮肉が効いている。あの書斎にあった書籍はあくまでも男性の性欲を満たすためだけの目的で集められたもので、異性愛も女性同士の同性愛も男性から見たエロチシズムのアイテムでしかなかったのではないだろうか。そこから秀子は自身の性的アイデンティティを持ちつつ、知識を得ていたというのはこの映画の忘れてはいけない部分だと思う。第一部で秀子はバイセクシャルではないかと匂わせておいて、第二部でそうではなかったという事が明確に描かれている。この映画が巧みなのは、そういった感情や想いのすれ違いを客観と主体で交差させている所なのではないだろうか。三部構成でメインの3人の視点で描きながらも、それぞれ抱える偽りが微妙に変化していく様がスリリングに展開していく。
とここまで良かった部分を挙げたのだけれど、物語全体で言えば説明的過ぎる内容で正直観賞後は退屈な印象だった。三部構成でそれぞれの視点で描く所にユーモアや意外性が欠けていて、分かり易過ぎる内容はちょっと辟易してしまった。原作を読んでいないのでなんとも言えないのだけれど、話としては凡等な印象は否めない。悪くないんだけど…というのが正直なところ。第三部の指詰めシーンも、韓国映画らしい肉感に迫った描き方だったものの、なんとなしにああそうなるんだろうなという終幕に意外性は無かった(韓国映画は痛感にダイレクトに訴える描写が多い)。
とはいえ、秀子役のキム・ミニと珠子役のキム・テリの脱ぎっぷりの潔さの凄さは感服する。日本映画と比べるのはやぶさかではあるものの、ここまで体を張って演技すること人はいるのだろうか?と少しばかり思ってしまった。脱ぐという事では無く、作品に対して自らをさらけ出して挑むかどうかという点で。
この映画はセクシャルな部分も話題の点かも知れないけれど、それをしっかりと描こうとした意志は感じられる。LGBTというトレンドを傍目に見ていたかも知れないけれど、そこに対してふたりの女優が体当たりしたのは賞賛すべきだと思う。男性のオナニーに付き合った作品ではないのは明らかだから。


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