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エヴォリューション Evolution/

エヴォリューション

フランスの作家ミシェル・ウェルベックの短編にランサローテという作品がある(池澤夏樹監修の世界文学全集短編コレクションIIに収録)。主人公がヴァカンスのため旅行代理店で勧められるがまま選んだシチリア諸島のランサローテに旅行する話。火山の島で溶岩出てきた岩肌など、観光地というにはあまり魅力的には感じられない風景が主人公の視点から描かれている。特に見るべき場所もなく、国立公園に行くかホテルの辺りで過ごす以外娯楽のほとんどない場所のようだ。主人公が同じく観光できたドイツの女性ふたりとセックスするシーンが挟まれ、島自体の何もなさを強調するようにオーガズムに達していた。

ルシール・アザリロヴィック監督のエヴォリューションを観た時、「この風景はもしかしたらウェルベックのランサローテのあの場所なのでは?」と思いパンフレットを開いたらまさにその場所だった。ウェルベックが文章で描いたあの場所から想像した風景が眼前に広がった瞬間、イメージと違わない何もなさが寸分たがわず、あの文章に込められていたと感じたのが、この映画のファーストインプレッションだった。しかしその島を囲む海の中は幻想的で、単調な島の暮らしとは打って変わって、色彩溢れる表情を見せる。

この映画はなかなか形容しがたい。監督が影響受けた作品にデヴィッド・リンチのイレイザーヘッドがあるように、異形の赤子というのは共通している。エヴォリューションというタイトルの意味が「進化」を意味するところから、新たな生命の形を表しているのだろう。

主人公のニコラの眼差しはどこかミツバチのささやきのアナ・トレントにも似たイノセントな力強さと儚さを持つ。ニコラが島にない物の記憶をノートに描いている事や、実の母親ではない半魚人の女性に育てられる経緯などの説明はない。この島に住むのは半魚人の女性たちと、年端もいかない男の子のみ。何かが起きていて、何かが終わり新天地へと送り出される事しかわからない。

テルミンのような楽器を使った音楽の雰囲気もあり、クラシカルな映画の雰囲気と非現実的な映像に感嘆するばかり。

ルシール・アザリロヴィックはギャスパー・ノエの公私ともにするパートナーというところもあり、表現への探求はノエとは異なるものの、同じ匂いのする監督だと思う。

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