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ジョアン・ジルベルトガイド㉑/ジョアン・ジルベルトのバチーダ奏法について

・ジョアン・ジルベルトの演奏法

ジョアン・ジルベルトの基本的なバチーダ奏法について説明していきたい。
時代によって弱冠演奏の仕方は異なるが、基本的な演奏スタイルのパターンの代表的なものを紹介する。
バチーダ(Batida)とはポルトガル語で「叩く」「打つ」などを意味する言葉で、ここではサンバの演奏からリズムや和音を換骨奪胎し、メロディに新たな和音を加えてヴィオラォン(クラシックギター)一本で演奏できるようにした、ジョアンの演奏スタイルと考えてもらえば良いと思う。
演奏するうえでまず必要なのがヴィオラォン。いわゆるナイロン弦を使ったクラシックギターで、ジョアンが使っているものなどについては別ページにて説明しているのでそちらを参照してほしい。

・右手の働きについて

弦を爪弾くための右手で使う指は小指以外の4本。親指はベースラインを弾いて、ほかの3本の指で和音を弾くかたち。爪は長すぎず短すぎず弦にしっかりと当たる長さにそろえる事。(余談だがトニーニョ・オルタのように爪を使わずに演奏する人もいる)
6本の弦全てを鳴らす事はしないので、4本の指で4つの音を鳴らすのが基本。

ジョアンの右手をみると、掌を下側に反らせて親指をまっすぐ伸ばし、他の3本の指の爪が弦に水平にヒットするように添えられている。

具体的には次の画像①のように腕に対して掌の姿勢はまっすぐにせず、画像②のように下に反らすように構える。(赤い線は弦のイメージ)

画像① 掌がまっすぐの状態

画像② 掌を下に反らせた状態

①のように掌が真っ直ぐの状態では爪が弦にしっかりと当たらず、②のように掌を下に反らすことで爪が弦と並行になる事でしっかり弦を捉えて鳴らす。こうする事で明瞭な音色を出す事が出来るようになる。

・左手の動きについて

右手と異なり、フレット上の弦を押さえる左手で使うのは親指以外の4本。ロックのように6弦を親指で押さえることは無い。
コードの押さえ方は通常のポップスやジャズとほぼ同じだか、6弦ルートのマイナーセブンスコードなどではセーハ(人差し指で全ての弦を押さえる)せずに押さえる事が多々ある。例えばAm7では人差し指6弦、中指4弦、薬指3弦、小指2弦といった押さえ方をする。
ただし、前後のコードワークで変わってくるため、必要に応じて切り替える事を念頭に置いておきたい。ボサノーヴァで使われるコード進行は複雑な物(特にジョビン)が多いため、とにかく多くの曲を弾いてみて覚えるしかない。

・リズムについて

基本のリズムはサンバで使用されるスルドとタンボリンから来ていると言われている。
ベースラインはスルドのリズムを簡略化したボンボーンという音のイメージを模している。よくジャズなどでバチーダ風に演奏する際に、ルートと5度を行き来するようなものをよく耳にするが、ジョアンのスタイルではこういった動きはせず、ストイックに同じ音をスルドのイメージで繰り返し演奏される。

ジョアンの演奏パターンはこのベースラインのリズムの上にいくつかのバリエーションが繰り広げられているので、体得するためにはこの部分を崩さずに演奏を心がけることが重要となる。

基本パターンを以下の譜例にしたがって見ていきたい。
便宜上ベースラインとその他を分けるため2段に分けてある。

基本パターン①

Chega de saudadeなど多くの曲で使われる基本パターン。

基本パターン②

Aguas de marcoなどで使われるパターン。
アルバムJoao Gilberto(1973)やBrasilなどで頻繁に耳にすることが出来る。

バリエーションとしてVoce vai verでの演奏のように上記のパターンもある。

アルバムBrasilの頃のように短めに音を切る事によってシャープな演奏になることもある。細かいバリエーションがあるため意識して耳で聞き分けてみるといいと思う。

基本パターン③

G7(13)-G7(♭13)-C9-C7(♭9)のようにトップノートが下降する時によく使われる。Ela E CariocaでのC69-B7(#9)-B♭69-A7(#9)-A♭M7の部分など。

基本パターン④

Falsa Baianaのイントロなど、たまに使われるパターン。
ジョビンはピアノで弾き語る際によくこのパターンを用いる。

基本パターン⑤ マルシャランショ

所謂マルシャのリズムで和音部分が8分の付点になっている。Trevo de quantro folhasやTrenzinhoなど。カエターノ・ヴェローゾのColacao VagabundoやOdaraを聴いた方が分かりやすいと思う。

基本パターン⑥ ワルツ

Valsaなどで聴く事ができるワルツのパターン。

リズムについてとにかく重要なのはベースラインのパターンを一定に保つ事と、小節を跨ぐアンティシペイションをしっかりと身につける事。ボサノーヴァ風の演奏でよく見られるのはこの二つが間違っている事が多いので、ここをまず理解する事から始める事。時代によってジョアンの奏法は変化しているが、主にここであげたものが使用されている。

・コードについて

コードについてはリハーモナイズ、転回系や、ディミニッシュ、テンション、オルタードなどの話を入れると長くなるので、ここでは代表的な3つの特徴のみ取り上げる。

5度ルート

6弦を使用する事が多く、5弦にルートがあっても5度にあたる音を使用するためこのような形になる。代表的なところではA FelicidadeやGarota de Ipanemaなどで使用されている。ジョアンの大きな特徴のひとつ。
画像のコードはG69と構成音は同じだが、ここではあくまでもC69/G。

3度ルート 転回系

5度だけでなく3度を低音にもってくる転回系もよく使われる。
Aqualera do BrasilのD6/F#-Fdim-Em7-A7(♭9)など頻繁に使用される。
画像のコードはD6/F#

Ⅱ-Ⅴ ツーファイブ

Ⅱ-Ⅴの際にルートはそのまま弾く事が多いため、コードチェンジする時に4弦のみ弾いて強調することで変化を表現する。
画像のコードはF#m7-B9/F#(F#m6と構成音は同じ)。

駆け足で基本的な奏法を辿っていったが、基本となるスタイルはここであげたものがベースにありこれらを体得できればあとは応用するだけなので、興味がある方は是非ともチャレンジしてみて欲しい。
多くのMPB以降のブラジル音楽のパターンを辿れば、ジョアンによるこれらのパターンに集約されているので、ミュージシャンごとの特徴を研究してみると違いが分かり面白いと思う。

最後に演奏を身に着けるうえで参考になる本を上げておく。


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