デヴィッド・シルヴィアンが目指したジャズとブリティッシュフォークへの憧憬。
ジャパン解散後、Brilliant TreesからGone to Earthを経てシルヴィアンの表現はより穏やかなものにシフトし、ポストパンクの残り香は完全に消え去っていく。
Secrets of the beehiveはシルヴィアンなりにニック・ドレイクやジョン・マーティンのようなブリティッシュフォークへ舵をきり、オーガニックな表現を目指したアルバムとみることが出来るのではないかと考えている。
シンセサイザーが使用されているものの、楽曲は全体的にフォーキーな印象を受ける。なによりも元ペンタングルでニック・ドレイクのバックでも演奏していたダニー・トンプソンが数曲で参加しているのは見逃せない。過剰な演奏はせず、楽曲にふくよかな低音と的確なリズムを導くダニー・トンプソンのベースはこのアルバムのもつブリティッシュフォークな一面を表すのに重要なメンツとも言える。Brilliant TreesのThe ink in the wellでもベースを弾いていたが、ここではより楽曲に馴染んだ演奏を聴く事が出来る。
Orpheus
パーカッションで参加しているダニー・カミングスはジョン・マーティンのアルバムに参加しているので、ブリティッシュフォーク人脈としては近い存在とも言える。
もう一つ、この頃のシルヴィアンが目指したサウンドのひとつにジャズからの影響がある。具体的に彼が何を聴き吸収し表現に取り入れたのかは明言されていないものの、参加したミュージシャンから推測出来るのではないかと考える。
まずはBrilliant TreesとGone to Earthに参加していたフリューゲルホルンのケニー・ホイーラー、そしてSecrets of the beehiveに参加していたトランぺットのマーク・イシャムとギタリストのデヴィッド・トーンの3者が大きなヒントだと考えられる。なによりこの3者はECMでアルバムをリリースしていて、さらにマーク・イシャムとデヴィッド・トーンはウィンダムヒルでもアルバムを出している。
Kenny Wheeler/Gnu High
https://itunes.apple.com/us/album/gnu-high/288539124
Mark Isham&Art Lande/We Begin
https://itunes.apple.com/jp/album/we-begin/284090420
We BeginはSecrets of the beehiveと同じ年にリリースされたアルバムという事もあり、共通した雰囲気を持っている。
ここで繰り広げられたシルヴィアンの持つジャズの視点は、ECMおよびウィンダムヒルというレーベルが持つある種の静けさを表現として取り込み、引き出すためにこのメンツが招集されたのではないかと推測される。ニューエイジとして認知されているウィンダムヒルは、創設者でありミュージシャンであるウィリアム・アッカーマンの表現を聴けば分かる通り、カントリー/フォークの側面ももちながら、同時にミニマルな表現もあわせ持っている。
William Ackerman / Synopsis
60〜70年代のブリティッシュフォークに内在していたジャズの要素を、ECM/ウィンダムヒルのもつジャズ・フォーク・ミニマルの要素を取り込み新たなブリティッシュフォークとして表現しようとしたアルバムがこのSecrets of the beehiveと考えられる。
そこにもともとクラシック出身でありジャズピアニストでもある側面も持つ坂本龍一が参加する事で、より豊かな音楽が形成されている。教授のピアノとシンセサイザーからはジャズを通り越してラベルやドビュッシーの響きが聴こえてくる。そう考えると教授はシルヴィアンにとって一番の理解者と言える人物だろう。
ダニー・トンプソンを紡ぐブリティッシュフォークへの憧憬という視点でみると、実はEBTGのベン・ワットが意外と近い存在だと思われる。ベン・ワットもダニー・トンプソンをEBTGで起用し、自身のソロではニック・ドレイクやジョン・マーティンのようなインターバルの狭い濁った和音を使った曲を作っている。
Everything But The Girl/Rollercoaster
Ben Watt/Golden Ratio
ベン・ワットとシルヴィアンの表立った接点は無いものの、ベン・ワットのスポティファイのプレイリストにはシルヴィアンのオルフェウスがしっかりと並んでいる。ささいな事かもしれないけれど、かれらが共鳴しているのがわかるポイント。
194曲目にオルフェウスが並んでいる。
https://open.spotify.com/user/benwatt/playlist/0inHe5mbRJoHBtPl8dWMYg
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