アンダー・ザ・シルバーレイク Under the silver lake/主人公の行動原理とは?「周波数は何だいケネス?」
楽しみにしていたアメリカン・スリープオーバーのデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督のアンダー・ザ・シルバーレイクを観てきた。
雑誌、ゲーム、広告、音楽、映画とあらゆる引用の嵐で、観終わった後もあれはなんだったんだ?というところで終わる。
スコアは常に不協和音を奏で、何かが起こる前触れのクリシェをひたすら繰り返す。全てが現実なのか幻想なのかわからない。猟奇的でもあり、コミカルでもある(個人的にはソングライターのシーンなど笑ってしまったシーンが多々あり。ソングライターの場面であった顔グシャは、個人的にはアレックス、ドライヴに続いて3回目)。
とにかく何かが起こるクリシェを繰り返し、映像以上に音楽が不穏な空気を醸し出し、殺人や怖い何かが背後に迫ってる気配が常につきまとう。
ヒッチコックやリンチ、ケネス・アンガーのハリウッド・バビロンなどアメリカン・ゴシックを描いた映画だと感じた。ニルヴァーナのカート・コバーンまでそこに入れ込んだのはなるほどなと。
とまあ多くの人がこの映画について色々考察すると思われるのだけど、パンフレットでもちゃんと触れられていなかった(※よくよく読んでみたら宇野維正さんのコラムで取り上げられてました)のが劇中で流れるREMのWhat’s the frequency Kenneth?について。
この曲は実はこの映画の肝だと思っていて、この曲がもつバックグラウンドが主人公サムについてのある種の説明にもなっていると思われる。
1995年に発売されたREMのヒットアルバムMonsterの冒頭に収録されていて、前年にシングルでリリースされている曲。
この不思議なタイトルは電波系暴行を行った犯人が犯行時に「周波数はなんだいケネス?」と言ったフレーズから引用されている。
発売当初からタイトルについてはアルバムの解説でも触れているため、知っている人は知っている内容だと思う。
1986年当時CBSのキャスターだったダン・ラザーが暴漢に襲われた際に繰り返しこの言葉を浴びせながら殴られたという所が由来で、当時色んなテレビ番組でブラックジョークとして扱われていたという事。
CDのライナーにある通り「頭のアンテナが電波をキャッチした」という通り陰謀論を自分はキャッチした!というのがこの映画の主人公サムの行動原理だったのかなと。
(因みにこの曲のPVではカート・コバーンが生前デザインしたフェンダーのジャガーとムスタングが合体したジャグタングが登場する。アルバム自体がカート・コバーンへの想いが込められている)。
あらゆるメディアには隠れた主張があり、自分の預かり知らない所で誰かがこの主張を発信し、受け取っていると信じてやまないサム。
という事で、この曲にこの映画の全てが込められている…とも言えないかもしれないけれど、精神分裂症と思われるサムが銃を持って何をしでかすのかそうでないのか頭の中で想像するとぞっとするのではないだろうか?
地下シェルターのような場所に閉じこもったサラとの別れは、まるでこの世の終わりか、もしくははるか宇宙の彼方ではなればなれになってしまったような感覚があり不思議な悲しみがある。
浮世離れし過ぎていて現実感がないため、感情移入はできないけれど、映画の中では2人は繋がりを求めていて、サムもサラもそこで描かれたものとは違う結末を求めていたのかもしれない。
近作の映画で言えばファイトクラブ、マルホランドドライブやインヒアレントヴァイス、her、エターナルサンシャインなど現実と非現実が交差するような映画に位置付ける作品だと思う。
この映画はマルホランドドライブ(前半は主人公が考える陰謀論が展開される)が大人しく見えるくらい狂った内容だと思う。
今の時点では傑作なのかすらわからない。
それがこの作品の魅力かもしれない。