エレクトロニカは何を夢みたのか?②/グリッチサウンド オヴァルとオウテカ
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エレクトロニカの代表的なサウンドといえばグリッチノイズ。グリッチ(Glitch)とは直訳すると「故障、電力の突然の異常」という意味で、ニュアンスとしてはデジタルエラーと思ってもらえばいいと思う。
ヴィジュアルで例えるならば(初期のプレイステーションを体験した人ならわかると思うのだけれど)、ゲームのソフトの読み込み不良で画面がエラーで荒れる映像のイメージがそれに近い。アドヴェンチャータイムで読み込みエラーを再現した「A Glitch is a Glitch」の回では、あの頃の読み込み不良のエラーが再現されている(効果音もしっかりグリッチ)。
オヴァルのジャケットで描かれているグラフィックはまさにこう言ったデジタルエラーをビジュアル化したもので、それを極限まで映像化したのがオウテカのガンツ・グラフだった。サウンドに置き換えて考えれば、グリッチノイズはこのようなエラーを音で意図的に起こしサンプリングしたものである。まずはCDの読み込みエラーによるスキップノイズを取り入れた、グリッチノイズの始祖オヴァルを取り上げていきたい。
オヴァル Oval
Systemisch 1994年 Mille Plateaux
オヴァルはドイツのノイエドイチェヴェレ(ジャーマンニューウェーブ)の中心レーベルであったアタタックから3人組ユニットとしてデビュー。その後、マーカス・ポップ単独のユニットとなるが、メンバー脱退前に1994年にミル・プラトーから「Systemisch」がリリースされる。元々このアルバムはマーカス・ポップの希望で、歌ものとして制作が進められていたものの、メンバー脱退によりグリッチのみのインストアルバムとなった。マーカス・ポップは歌が入らなかった事に落胆したものの、結果的にはこのアルバムがグリッチによるエレクトロニカの始まりとなった。以降オヴァルは終焉に至るまでのムーブメントの中心的存在となる。
オヴァルのサウンドの特徴は、いわゆる楽譜で書き表せられるようなメロディや和音のケーデンス、リズムは希薄で、個々で周期するノイズのループの音が折り重なっている。CDにマジックを書き込んで意図的に音飛びを作り出して、サンプリングするスタイルはのちのオウテカなどエレクトロニカ全般に影響をもたらしている。仄かな和音を感じさせるパッドサウンドに、ジリジリとなるノイズがそれまでのテクノ/ハウスとは違う次元のサウンドを奏でているのは一聴して分かる。
94 Diskont 1996年
dok 1998年
Szenariodisk 1999年
Ovalprocess 2000年
Pre/Commers 2000年
Ovalcommers 2001年
ノイジーかつポップになった94 Diskont、現在も武蔵美学芸員を務めるクリストフ・シャルルとのコラボレーションによるノイズアンビエントなdok、カラフルでオヴァルシグネイチャーなサウンドを確立したSzenariodiskとアルバムをコンスタントにリリースする。マーカス・ポップは誰でも「オヴァルになれる」というオヴァルプロセスのコンセプトを掲げ、日本のテクノの中心レーベルでもあったSonyと共同でオヴァルプロセスの開発に取り組む事になる。
オウテカ Autechre
Autechre/lp5 1998年
Autechre/EP7 1999年
Autechre/Confield 2001年
Autechre /Gantz Graf 2002年
Autechre/Draft 7.30 2003年
オウテカはアルバム「LP5」で、それまでのエイフェックス・ツインに近いスタイルからグリッチーなエレクトロニカに接近する。トータスのリミックスを挟み、完全にグリッチにシフトした「EP7」、ヒップホップ的アプローチを見せた「コンフィールド」のリリースでエレクトロニカの寵児として躍り出る。オヴァルが独自のルールやマナーを保持しながら表現を拡張していたのに対し、オウテカはMax/MSPやリアクターなどを駆使してグリッチをマキシマムな表現へと突き詰めていった。その到達点が「ガンツ・グラフ」で、インダストリアルな映像も含めたグリッチのピークはまさにこの曲で最高潮を迎える。「ドラフト7.30」を最後にグリッチサウンドから離れていく。
以下、それ以外のミュージシャンとアルバムをざっくりと羅列していく。
キッド606 Kid606
GQ on the EQ++ 1999年
ps I love you 2000年
ps you love me 2001年
リチャード・ディヴァイン Richard Devine
Aleamapper 2001年
シリコム Slicom
AOKI takamasa - SILICOM 2001年
ミクロストリア Microstoria
_snd 1996年
ダット・ポリティックス Dat Politics
Sous Hit 2000年
竹村延和
Scope 1999年
あげればきりがないので代表的なアルバムのみに留めたいが、アメリカのキッド606やMax/MSPの開発に携わっていたキット・クレイトン(次回取り上げます)、リチャード・ディヴァイン、ドイツのオヴァルとマウス・オン・マーズによるユニットのミクロストリア、日本のAOKI Takamasa(最近ではサカナクションに関わっている)や竹村延和などアメリカ(の一部)、イギリス、ドイツ、日本のインディペンデントシーンでグリッチサウンドのエレクトロニカは盛んに盛り上がっていた。
今振り返ってもやはりシーンの中心にいたのはオヴァルとオウテカの二組で、グリッチのイメージと共にシーンの顔役としてインパクトをもたらしていた。
同時に2000年を過ぎると各所でシーンが形成され始め、一つの集大成としてミル・プラトーからグリッチ/マイクロサウンド/クリックのコンピレーションアルバム「クリックス+カッツ」がリリースされる。
次回はクリックス+カッツとマイクロサウンド、ダブを軸に振り返っていきたい。
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