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イット・カムズ・アット・ナイト It comes at night/トレイ・エドワード・シュルツ

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タイトル:イット・カムズ・アット・ナイト 
It comes at night 2017年代
監督:トレイ・エドワード・シュルツ

次作ウェイヴスの日本上映が控えているトレイ・エドワード・シュルツ監督によるA24配給作品。ここにあるホラー的要素はあくまでも主人公トラヴィスが夢の中で思い浮かべるイメージであって、いつ迫り来るか分からない伝染病に対する恐怖心が眠りにつく後に描かれている。冒頭の伝染病にかかったおじいさんが射殺されるシーンから始まることで、病気にかかる後の顛末が最初に示される。恐怖は病気だけではなく、家族を含む他者との関わりという点がこの映画の肝になっているといえる。

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家族を守るために危害を加えるもの…それは伝染病だけではなくそれを媒介するものも含めた他者を排除しようとする主人公の父親ポールの行動も迫ってくる病気と同じくプレッシャーとしてのしかかってくる。カメラワークに注意を向けると、広角でトラヴィスの後ろから迫ってくるような描写があったり見えない不安や恐怖が迫り来る様子が描かれてる。
不条理な恐怖がトラヴィスの心に浮かび上がり、そのイメージが徐々に現実として起きていく様がこの映画の怖さとして浮かび上がってくる。現実に対して暴力的なまでの父親の正義は果たして正しいのかという疑問はラストのシーンで考えさせられる所だったのではないかと。 

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映画の中の世界がどうなっていたのかは詳しい説明はないものの、パンデミックが起こりかなりの人々が死に絶えてしまい100km圏内に人がいないという場所が舞台となっている(その割にはいきなり人が出てくるのだけど…)。
劇中世界の状況を伝えるのは、キャラクター間の会話よりも家に飾られていたブリューゲルの「死の勝利」が大きなヒントになっている。

かつてヨーロッパを席巻したペストの流行を描いたこの絵は、主人公を取り巻く家族が暮らす地域がどのようにして混乱の最中にいたのかが示されている。奇しくも今の新型コロナウィルスの状況と同じように人と人が接することで、病原菌が流行した事で家の中に引き籠るしか感染経路を経つ選択肢が無い状況というのがリアルに描かれている。劇中ではインフラも破綻しているため状況としては今現実に起こっていることよりも悪い方向に進んだ世界だといえる。
そんな極限状態でありながらも、ソーラー電源などを駆使しながら生活を保とうとする様など、今の世の中を予見したような内容は驚きを覚える。

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外界との出入り口となる赤い扉の存在感は見もの。建物の異様さがその先に何かがいるような気配を感じさせる。外の描写が出てくる割に、この扉が映し出されると外界の恐怖がじっとり描かれている。俳優だけではなく、建物が語る恐怖は「悪魔のすむ家」のようなある種の禍々しさを感じた。

この映画は家族間の正義からもたらされる暴力や、他人への猜疑心がテーマであってホラー的要素はあくまでも表面的なものだと思う。
監督自身は継父から受けた迫害をベースにしているため、父と母との関係を見ればラストの後どうなるのかは想像出来る。ラストで母がマスクをしなかったのは、伝染病に罹ったとしても直に触れたいという想いがあったことと、当然その母のその後がどうなるかなど浮かばれない結末の寸前で終わっている。夢よりも現実のほうが不条理な出来事という現実を突きつけられる作品だったと感じた。

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