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【映画】逆転のトライアングル Triangle of sadness/リューベン・オストルンド


タイトル:逆転のトライアングル Triangle of sadness 2022年
監督:リューベン・オストルンド

「フレンチアルプスで起きたこと」と「ザ・スクエア 思いやりの聖域」での倫理観の揺さぶりをかけながら、シニカルなユーモアで包み込むリューベン・オストルンドの新作「逆転のトライアングル」。本作は今まで以上にシニカルかつ突き抜けたユーモア満載の作品に仕上がっている。できる事なら人が多く入っている映画館で、同じ笑いを楽しむべき一本だと思う。こういう映画こそ映画館の空間の中で観るべき。
監督のインタビューによると原題の”悲しみのトライアングル”は、美容業界で使われる言葉で眉間にできる皺を意味する。冒頭のモデルオーディションのシーンでも分かる様に、無表情のハイブランドモデルと笑顔のファストファッションブランドの対比が社会の格差を表している。ヤヤとカールのレストランの支払いの揉め事にある様に、モデル業界は男女で稼ぐ額が大きく異なり、女性モデルは男性モデルに対して一つ桁が違う格差が生まれる。映画の中で常に付きまとうのが、格差や社会的な立場によるヒエラルキーで、富豪を乗せる豪華絢爛なクルーズ船の人々と、接客をする白人たち、甲板の清掃をするブルーカラーと有色人種の対比がまざまざと描かれる。好き勝手に楽しむ船長と富豪たちとは対象的に、後片付けをする清掃員の隷属的な立場。コミュニズムとキャピタリズムで何故か打ち解ける船長(マルクスとチョムスキーを愛する役は名優ウディ・ハレルソン)とロシアの富豪の無茶苦茶な関係など、とにかくしっちゃかめっちゃか。柔和かと思いきや武器の輸出で儲けたイギリス人老夫婦の下りは笑わせてくれる。物々しく銃を構えた船員がいる事が、その後の出来事を予兆させる。とにかく脚本が秀逸で、言葉で説明せずともその後に起きる事をしっかり予兆させておいて、しっかりその通りに物事が進む。
そして島に流れ着いた先にある社会構造の転覆した関係性は、痛烈な社会批判に仕上がっている。自然を生き抜くのは火を起こし、狩りができる能力をもつ人間であり、ソーシャルの中で生き抜くためにはヒエラルキーの中で生きるしか方法は無い。全てが翻る時、恐ろしいほど個人の能力が試される。男女関係なく能力で資本を勝ち取れるかという、原始的な社会の構造に立ち返った時、どの様に立ち回れるかで立場が変化する。しかし、そのドラスティックな関係がもとに戻る時、人はどの様な行動に出るのだろう。コミュニズムからキャピタリズムへと戻る時に、無情なまでに一時的な関係は脆くも崩れ去っていく。社会を捨てその場に留まるのか、社会へと戻っていくのかの余韻が残される。社会という幻想を痛々しいまでに突きつける所に本作のラディカルなテーマがある様に感じられる。

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