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【本】掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン

おそらく多くの人がミニマリズム文学との近似を感じていると思う。翻訳者の岸本佐知子さんのあとがきにもレイモンド・カーヴァーらの名前が挙げられている。岸本さんも書いている様に、カーヴァーらの作品とはどこか根底にあるものが異なる。省く事で余韻を持たせるミニマリズム文学に読後感はたしかに似ている。しかし、記憶を辿っていったらいきなり途切れるような終わり方は、省くというよりも物語の道筋がそこまでしかなかったかの様に道は閉ざされる。時に鮮やかな色合いをもつ景色と共に、またはアルコール依存の酔いの先にある冷めた感覚が、あるいは子供時代の戦中前後の炭鉱町での記憶、それぞれが生々しく血筋が通った物語の末に、中空のなかにふわりと置き去りにされる。
これでもかと立て続けに綴られるさまざまな物語は、実体験とフィクションの狭間に湧き起こり時にユーモラスで、悲劇や、苦痛、ロマンスが配列で存在している。ひとりの人間がここまであらゆる場所で暮らし、それぞれ語るべき物語をもっているのは驚異的でもある。読んでいくうちに、何が起きているのか分からなくなる瞬間も多々あった。現実味と非現実さが隣り合わせになっているのに、生々しくもあり距離感も同時に感じさせる。それは歯科医の祖父とのおぞましい光景や、コインランドリーでのネイティブアメリカンの男性とのやりとりなど、光景が頭の中でありありと浮かびながらも、一体何が起きているのかと思わされる。
ビル・エヴァンスとスコット・ラファロのライブを観たという、ジャズファンにとっては悶絶するような話がさらっと書かれていて、驚くばかり。


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