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【映画】トリとロキタ Tori et Lokita/ジャン-ピエール&リュック・ダルデンヌ


タイトル:トリとロキタ Tori et Lokita 2022年
監督:ジャン-ピエール&リュック・ダルデンヌ

映画の予習のためというわけでは無いのだけど、ここ数日ダルデンヌ兄弟の過去作を観た。「イゴールの約束」、「午後8時の訪問者」、「サンドラの週末」、「その手に触れるまで」と未見だった近作を中心に鑑賞していたのだけど、近作よりも90年代のザラっとして観客を突き放した表現の方が、行き場のない感情の場に放り込まれる感覚がある。
本作「トリとロキタ」は「イゴールの約束」や「午後8時の訪問者」に登場したようなアフリカ系移民が主人公で、監督が毎度取り上げる移民と貧困がテーマになっている。このテーマを扱った理由として監督が語っていのは、移民たちの低年齢化と事件に巻き込まれたりして失踪する事件がニュースで取り上げられた事が動機となったという。

「イゴールの約束」では密入国者斡旋の泊まり場での搾取が描かれていて、「午後8時の訪問者」では売春の末若いアフリカ系の女性が殺される所から始まる。「トリとロキタ」がその2作と異なるのは、搾取される側のアフリカ系の人の視点で描かれている事。ビザの取得のためにドラッグの売買を行っていたり、そこで得た金も密入国斡旋の人たちに巻き上げられ、さらにディーラーから性的な搾取を受ける。生活のためにアフリカから渡った彼らを守る法律もなく、日銭を稼ぐために闇の仕事へとズブズブとはまり込む。徐々に悪い方へと傾きながら、年の違う少女と少年が手を取り合って助け合っていく様に救いを感じる。しかし、この二人も立場は真逆で、少年トリは保護された経緯からビザを取得している一方、少女ロキタは密入国だったためにビザの取得が難しい。より良い生活を目指した先のヨーロッパへの過程は似たようなもののはずなのに、リーガルかイリーガルかで棲み分けされてしまう社会の在り方は、ベルギーに限らずあらゆる場所で起きている。日本でも移民の受け入れについて問題を孕んでいるし、他人事ではないが大陸と島国の違いはダルデンヌ兄弟の映画を観ていると、それらが日常の中に含まれているのだと毎度感じさせられる。

ダルデンヌ兄弟の近作の評価を色々見ていると、評判の良くない面も書かれていた。とある評ではケン・ローチの近作のような切実な鋭さがなく、過去作の模倣のようになっているとも書かれていた。確かに「その手に触れるまえに」は、ムスリムの過激な面にハマる少年というフランスのテロを彷彿とさせる内容ではあったが、自己模倣的な作品のようにも感じられた。「トリとロキタ」ではそれ以前の今まで取り上げてきたテーマの延長に立ち返ってきた印象が残る。
自転車を一心不乱に漕ぐトリの躍動感と、後半の緊張感溢れる逃亡劇、そしてその先にあるショッキングな結末は観終えた後にダルデンヌ兄弟らしい苦味が残る。

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