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【映画】ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった Once were brothers/ダニエル・ロアー

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タイトル:ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった Once were brothers 2019年
監督:ダニエル・ロアー

正直なところ、「またロビー・ロバートソンの綺麗事かよ」というのは否めない。あまりにもロビー・ロバートソンサイドの視点から描かれすぎて、他のメンバーは死人に口無し状態。トッド・ラングレンかグリン・ジョーンズのどちらかを起用するのかで揉めたアルバム「ステージフライト」辺りから起き始めた、リヴォン・ヘルムとの確執は大きな軋轢として残ったままだったのは仕方ないとしても、ロビー・ロバートソンの自己陶酔する様は辟易してしまう。
そういった事から、このドキュメンタリーが全てを台無しにされたかといえばそうではなく、ロビー・ロバートソンの視点でザ・バンドの活動が総括されているし、何故ラストワルツに向かってバンドが崩壊していったのかがよく分かる。彼には彼なりのザ・バンドのストーリーがあるし、仲間と過ごしたかけがえのない日々の輝かしい記憶から紐解かれるバンドの物語には熱いものが込み上げてくる。
バンド結成前から解散までの大まかな軌跡はあらゆる所で書かれているし、その時代を時系列で映像を交えて語られるので、よく知っている人も知らない人も楽しめると思う。特にセカンド以降の、名声を手にした後に待ち受けるメンバーのいざこざがこのドキュメンタリーの肝だと思う。
リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、リヴォン・ヘルムが各々事故を起こした事はクロノグラフィで字面で知ってはいたものの、実際に事故を起こした後のクラッシュした車の写真を目の当たりにすると、文章で触れているよりも生々しさを感じさせる。家庭を持っていたがために目標を持って行動していたロビー・ロバートソンと、無軌道に行動する3人の間にいかに軋轢が生まれていったのかは、この場面がある事で決定的な引き金になったのが赤裸々に登場する。特にリチャード・マニュエルがロビーの妻を乗せて事故を起こした事は、命に関わるものではなかったから良かったものの、無軌道な行動の際たるものだと思う。バンドのイメージから、質素な生活をしていたと思われがちだけれど、イーグルスやレッド・ツェッペリンなどの同時代のバンドと同様に、ドラッグと酒に溺れたワイルドなロックライフを過ごしていたというのがまざまざと示されている。ロビー・ロバートソンを除いては(ガースも)。バンドの破綻への道のりを感じながらも、そうはさせまいと足掻いていたのは彼に他ならない。ロビー・ロバートソンも並々ならぬ努力を続けていたのもよう分かる。
ひとつ良くわかったのは、ザ・バンドの大半の曲を書いたロビー・ロバートソンが作曲面で牛耳りたかった訳でなく、時間が経つにつれて他のメンバー、特にリチャード・マニュエルが作曲に参加しなくなった事から自然とそうなっていった事だった。地下室のセッションからセカンドまで、各メンバーが作曲に関わっていたのに、ロビーだけが担っていた経緯が明らかにされている。

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映画を通してロビー・ロバートソン以外のメンバーによるザ・バンドへの貢献があまりにもスルーされているようにも思えるし、バンドのブレーンとしてのガース・ハドソンの在り方や、ただのベーシストに収まらないエモーショナルなヴォーカリゼーションを炸裂させるリック・ダンコのマルチプレイヤーぶりは説明はあれど殆ど出てこない。
やはり一番引っかかるのがリヴォン・ヘルムとの確執だろう。ステージフライト以降のリヴォンの扱われ方は、かつて兄弟のように慕っていたけれど、ただの薬中に成り下がった人間としてしか描かれていない。ロビー側からみれば意を唱える人間であり、それまでとは関係が違っていったのは分かるのだけれど、あまりにも型にはめた物の言いようにリヴォンの言い分は全く無視されているようで、ちょっとこれは気の毒になる。リヴォン・ヘルムのソロを聴くと、やはり音楽的な良心は彼の側にあるように感じるし、ザ・バンドが持っていた精神はロビー・ロバートソンよりも彼の方が晩年まで引き継がれているように感じる。

とはいえ、破綻したザ・バンドをちゃんと終わらせようと「ラストワルツ」をマーティン・スコセッシと画策し作り上げたのは、やるべきことをやるというロビー・ロバートソンの意思を強く感じさせる。ただその後の自分抜きのザ・バンドは無きものにされているし、あくまでも彼が関わったものが全てだと強く主張しているようで、それもなんだかなあという感じでもある。
これはあくまでもロビー・ロバートソンによるザ・バンドの物語であって、バンドの一側面でしかないのは強く強調したい。それぞれの人となりを知るには、セカンドのメイキングドキュメンタリーを勧めたい。ザ・バンドが持つ多面性がひとつひとつピックアップされているし、メンバーそれぞれのアルバムに対する想いがしっかり出ている。

リヴォンを聖人として祀り立てようとする本作のラストには興醒めしつつも、「ラストワルツ」での「The night they drove old dexie down」を歌うリヴォンの力強い歌声とロビーの曲の素晴らしさには抗えない自分がそこにいる。ややこしい感情を抱えながら、彼らが生み出した曲の数々は半世紀経った今も心を揺さぶられる。

より詳しい事は高橋健太郎氏による記事に細かに書かれているので、こちらも参照していただきたい。


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